2006年にマルコム・グラッヂウェル氏によって執筆された「天才! 成功する人々の法則」のなかで提唱された“1万時間の法則”。「何事も習得には1万時間の練習が必要である」とする1万時間の法則は果たしてゴルフにも当てはまるのか。プロコーチ・井上透がプロがクラブを握ってからプロテストに合格するまでにかかった時間やジュニアゴルファーの育成事情を調べてみたら、衝撃の事実がわかった!

「1万時間」という数字が非常に大きな意味を持つ

皆さんは「1万時間の法則」という言葉を聞いたことがありますか。2006年にマルコム・グラッヂウェル氏によって執筆された「天才! 成功する人々の法則」の中で提唱された法則です。この本の中では何事も習得には1万時間の練習が必要であることが論じられています。

私は以前、この本に出会った時にゴルフにも同じことが言えるのでないかと興味を持ち調査を行いました。するとPGA会員の名簿でゴルフクラブを握ってからプロテストに合格するまでの年月の平均は約11年、ツアー選手のデータからゴルフを始めてからシード権を獲得するまでは約10年の年月がかかっている事が分かりました。仮に1日3時間、練習すると1年間で1095時間、これを10年続けると1万950時間ということで1万時間というマジックナンバーが見えてきます。

これ以外にも坂田信弘プロが主催している事で有名な「坂田塾」もこの事例に該当します。「坂田塾」の入塾対象者は小学3年生から小学6年生まで。入塾条件には、保護者は平日に練習場、土日にゴルフ場に毎日、送迎可能な事とあります。また練習量も毎日500球の練習をノルマとしています。

「坂田塾」といえば厳しい指導や、保護者が練習場やゴルフ場に入って子供の指導に関与してはいけないなど、指導方針に興味がいきがちです。しかしシンプルに考えれば卒塾(高校卒業)までの約10年間、毎日3時間以上の練習をするプログラムであることがわかります。この結果、高確率でプロテスト合格者を輩出し、その中からトッププロが誕生する事に繋がってきました。

画像: 坂田信弘プロ主催の「坂田塾」も1万時間の法則に当てはまる(撮影/西本政明)

坂田信弘プロ主催の「坂田塾」も1万時間の法則に当てはまる(撮影/西本政明)

さらにプロトーナメントでアマチュア優勝を果たした選手のゴルフを始めた年齢やゴルフを始めて何年で優勝を達成したかを一覧にしてみました。優勝した年齢は10代と非常に若いですがキャリアという点では10年近く練習を積んでいる事がわかります。

画像: アマチュア優勝を果たしたどの選手も10年近く練習している

アマチュア優勝を果たしたどの選手も10年近く練習している

もちろんごく幼い4歳頃でゴルフを始めた宮里藍プロや松山英樹プロは、累計の総練習量という捉え方ですが、十分に納得のいく参考データになっていると思います。

画像: 2011年の三井住友VISA太平洋マスターズで、アマチュアでツアー優勝を達成した松山英樹(撮影/姉崎正)

2011年の三井住友VISA太平洋マスターズで、アマチュアでツアー優勝を達成した松山英樹(撮影/姉崎正)

最後に韓国のジュニアゴルファーの育成事情で検証してみたいと思います。韓国では12歳前後でゴルフを始めるジュニアゴルファーが多く、多くのジュニアゴルファーが学校に通学しないで練習している事が有名です。

実際、私も現地調査を行いましたが平日の朝から多くのジュニアゴルファーが練習場で練習している姿を見かけました。アンケート調査でも毎日の練習量は1000球、練習時間は10時間にものぼりました。またゴルフができない冬季は、暖かい海外で2カ月以上のロングキャンプで技術を研鑽しているのです。これにより3年という短期間で1万時間に達することになるのです。

これらの事例からゴルフにおいても「1万時間」という数字が非常に大きな意味を持つ数字であることが判ります。もちろん、ゴルフに取り組むモチベーションや目的は人それぞれですから、1万時間以上の練習を積んでもプロゴルファーやトッププロのようなレベルに必ずしも到達するというわけではありませんが、ゴルフが好きで上達を願うすべての人が、ある一定量、地道な練習をコツコツと積み上げる大切さは、よくお判り頂けるかと思います。

井上透……いのうえ・とおる。1973年横浜市生まれ。日本におけるプロコーチの先駆けとして活躍し、現在は成田美寿々、川岸史果らトッププロを指導。ジュニア育成をライフワークともしている。

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