4カ月を棒に振ってでも、手首の完治を優先
「クラブをどこにしまったのか忘れてしまうくらい」と本人が言う長期療養を経て、ケプカがツアーに帰ってくる。
昨年、松山がメジャー勝利に近づいた全米オープン(結果は2位タイ)で堂々の優勝を飾ったのがケプカだった。その後国内ツアーのダンロップフェニックスでも後続に9打差をつける圧勝で連覇を達成していた。
順風満帆に見えた彼が左手首に異変を感じたのはそのわずか一週間後。タイガー・ウッズ主宰のヒーロー・ワールド・チャレンジに向け練習しているとき激痛が走った。それでも試合には強行出場。18名の精鋭が集う大会で成績は最下位だった。
痛みが引くのを待つためオフはクラブを一切握らなかった。だがぶっつけ本番で挑んだ年明けのトーナメント・オブ・チャンピオンズでも34人中34位。長期休養を決断せざるを得なかった。
「最初の診断より実際はもっと悪かった。腱の部分断裂の原因がわからず、腱を支える靭帯の異常がわかったのはしばらくしてから」(ケプカ)
通院しても一向に痛みが引かずついには腰から骨髄液を抜き左手首に注射したり、血漿板を注射する治療を試みることになる。
ケガの影響で楽しみにしていたマスターズにも出場できず、4カ月ツアーを欠場している間ゴルフ中継を見る気になれなかった。自分が立つべき場所で他の選手たちが躍動している姿を見るのが耐えられなかった。
だが マスターズだけは別。久しぶりに目にしたトーナメントは「楽しかった」。「これまで誰かを応援するためにテレビを見たこともなかったけれど、ファンのひとりとして画面に釘づけになった」。
その週大先輩のフィル・ミケルソンからメールが届いた。「早く良くなってツアーでまた戦おう」。
手首の痛みが癒えてからツアーで仲の良い“ご近所さん”ダスティン・ジョンソンとも会って親交を深めた。
ツアー唯一のチーム戦チューリッヒ・クラシック・オブ・ニューオリンズを復帰戦に選んだのは決して肩慣らしのつもりではない。全米オープンで優勝した頃となんら変わらないパフォーマンスができると確信したからだ。
「ものごころついてからずっとゴルフをしてきたんだ。4カ月のブランクなんてなんでもないさ」(ケプカ)
痛みを感じながらだましだまし試合に出ている選手は多いがケプカは4カ月を棒に振っても手首の完治を優先した。
今後どんな結果が待っているかわからない。だが長いゴルフ人生を考えると「しっかり治す」という彼の決断は賢い選択だったのではないだろうか。
撮影/岡沢裕行