2年半ぶりに再びトップへ
韓国ゴルフのパイオニアはいわずとしれたパク・セリ。1998年米ツアーデビューの年、パク・セリが全米女子オープン&全米女子プロのメジャー2冠に輝いた当時10歳だったパク・インビはパク・セリに憧れプロになる夢を抱いた。
同世代には米韓で賞金女王に輝いているシン・ジエやチェ・ナヨンらメジャーチャンピオンが顔を揃え“パク・セリチルドレン”と呼ばれている。
現在女子の世界ランクトップ100のうち韓国勢は40名と4割を占める。歴代ナンバー1はシン・ジエ、パク・インビ、ユ・ソヨン、パク・ソンヒョンの4人。パク・セリの時代はアニカ・ソレンスタムという絶対女王がいたためパク・セリが1位に就くことはなかった。
4人の歴代女王のうちもっとも長期に渡ってナンバー1に君臨しているのがインビで92週。2年半ぶりに返り咲いたことで再びその数字を伸ばすことになる。
これまで韓国女子のゴルフ寿命は短いといわれてきた。パク・セリは別格だが、出だしは良くても20代のうちにまったく活躍できなくなる選手が多かった。その原因について54ビジョンを主宰するメンタルコーチ、ピア・ニールソンは「ジュニア時代の育成方法に問題があるのでは?」と以前指摘していた。
将来のビジョンを明確に描かせ小さな達成感を積み重ねさせながらポジティブシンキングでスウェーデンをゴルフ先進国に導いたニールソン(元ナショナルチームコーチ)は韓国の軍隊式ともいえるジュニア育成法に当時から危惧を唱えていた。
たとえば夜中に重装備で登山させるサバイバル訓練。精神面を鍛える意図があるのは理解できるが「上から一方的に命令する形で指導するのは選手の人間的な成長を妨げます」とニールソン。
「スコアの良し悪しがそのまま人間性の優劣であるような意識を植え付けてしまっては長続きしません。ゴルフの成績はどうあれ人として愛しまれているという実感が大切なのです」
韓国ジュニアの指導法はパク・セリの時代からは変わっている。だが家族の期待を一身に背負い、成績の良し悪しで評価されるという点はあまり変わっていない。
30歳になったインビがブランクを経てナンバー1に返り咲いたのは韓国だけでなく世界でも稀有な例。一時は燃え尽き症候群が心配されコーチとの結婚で家庭に入るのでは? といわれたこともある。実際昨年8月の全英リコー女子オープン以降ツアーから離れ復帰したのは今年の3月。
初戦は31位タイに終わったが復帰第2戦のファウンダースカップで優勝を飾り直近の3試合でトップ3入りする好調ぶり。
「ゴルフの調子がすごく良いんです。いまはランキングのことは考えていません。たとえ1位でも2位でも5位でも20位でも健康で自分が納得するゴルフができれば順位は気にしない」
「今年も少ない試合にしか出場しない予定なので順位はすぐ落ちるでしょう。でもまた戻ってきて(ナンバー1に)返り咲けばいい。そうならなくても全然オーケー。一番の関心はメジャーです。今年もあと4つあるのでどこかでトロフィーが獲りたいです」
心と体をすり減らしてナンバー1を目指すのではなく自分のペースを貫き結果としてナンバー1になれれば良い。なれなくてもそれでよし。成績第一ではなく健康と幸せが優先順位の1番目。達観した人間は強い。