パーオン率の「約14%ダウン」が響いている
2015年、2016年と圧倒的な強さを見せ、2億3千万という年間獲得賞金額のレコードまで作ったイ・ボミだが、ここ2年は以前のような強さを示せていない。スタッツとスイング分析をして、何が変わったのかを見てみる。
スタッツ的に大きく変化を見せているのは、やはりパーオン率の低下である。2015年、2016年共に約74.5%で1位だったが、2017年は68.19%、2018年現在(7試合出場)は60.8%と以前の精度に陰りを見せている。女子プロにおいて、もっとも重要な(賞金ランキングと相関する)スタッツはパーオン率なのだが、そのパーオン率がここまで落ちているのが不調の原因なのは明らかだろう。
2017年は前年に比べ6.3%ほど落としている。これは18ホール回ったら1ホール以上マイナスということで、3日間になると3ホール以上だ。今年の60.8%と比べると約14%も落ちており、1日で考えると2.5ホールである。3日間だと7.5ホールもグリーンをとらえられていないということだ。パーオンするという意味はバーディチャンスがあるということ。パーオンを逃すとボギーの確率が格段とあがり、バーディーを取る確率は大きく下がる。
パーオンさせるには安定したスウィング、マネジメントが必要なわけだが、イ・ボミのスイングは3年前に比べて変わったのだろうか? 徹底的に詳細を比べてみた。
イ・ボミはテークバックでシャフトをたててトップまでもっていき、トップでの手の位置はワイドでやや高いほうだ。腕の通るプレーンはややインサイド。シャフトはトップでもやや立っており、クラブの重さを感じにくい入れ方だ。そこから、ややフライングエルボー気味の右わきをしめていきながら、ループターンを使いインサイドからオンプレーンに乗せていく。
シャフトはバックスイングとは違い一気にフラットにして右上腕の真ん中あたりにシャフトは巻き付いていく。このシャフト角度、インサイドラインはデータ的に超一流に多く見られるフラットラインで非常に良いと言えるだろう。マキロイ、ファウラー、スピース、ラームなどもこのラインだ。
イ・ボミのダウンスウィングは石川遼が最近みせる素振りに近い動きを見せている。切り返しからの腰のキレは申し分なく、手は下半身、上体につられることなく最後まで残り、飛距離も効率よく出しやすいスイングだ。インパクトの形も非常にきれいで角度も良い。しっかりとインサイドから捉え、フォローもインサイドに振り向けておりかなりレベルの高いストレートドロー系の良いスイングだと言える。あれだけの安定感を見せていたのにも納得だ。今年のスイングと見比べても、大きく変わったところは見当たらなかった。どっちがいいときで、どっちが悪いときかが分からないレベルに同じスウィングだ。
メカニズムは変わっていないのに、なぜこうまで結果が違うのか。これはイメージと現実の差、迷いが原因だろう。どんなにいいスウィングでもイメージを間違れば安定はさせにくい。一番ありがちなパターンが、自分のスウィングプレーンの理屈に合っていない球筋をイメージしてアドレスをすることだ。
このパターンはアマチュアにはとくに多く見られる。この問題を回避するには、まず自分のプレーンを理解することだ。イ・ボミ選手の場合はイントゥインのドローボールだ。このイメージとは違う球を打とうとするなら問題は起きやすいだろう。球は右に出る傾向が強そうなのでそれも踏まえなくてはいけない。
ここで自分のスウィング傾向の把握の仕方の一例を紹介する。アマチュアの方も参考にしていただきたい。30球ほど同じターゲットを狙って打ったときの球のばらつき方をデータで取ることだ。たとえばそこに傾向がでれば、アドレスの取り方は決まってくる。そしてマネージメントの仕方もそれにより非常に楽になる。
私の場合は必ずこのようなデータを取り、そのプレーヤーの傾向を把握し、さらにはミスの限定化ができるようにスウィングを調整していく。そうするとマネジメントは本当に楽になるからだ。たとえば右にも左にも同じようにばらつくプレイヤーより10回あるミスの9回が右に行くプレイヤーのほうがマネージメントはしやすくなり、スコアも安定する。自分のスウィングプレーン、自分のミスの傾向を把握し、それに伴ってアドレスをとる。そしてアドレスの取り方を徹底的に練習するのがアマチュアの場合上達の近道だ。
イ・ボミ選手のスウィングは完成しているのでイジる必要ない。それよりも自分の傾向を理解し、傾向を作っていければまた強いイ・ボミが帰ってくるのではないだろうか。
写真/有原裕晶