シン・ジエが優勝し、新鋭イ・ジョンウン6が躍動するなど韓国人選手の活躍が目立った「ワールドレディスチャンピオンシップ サロンパスカップ」。彼女たちのスウィングを統計学的データ分析の専門家であるゴウ・タナカが徹底分析した。

鈴木愛は構えてから打つまでに「1秒」時間がかかっていた

サロンパスカップはイ・ジョンウン6が来日、現在日本の賞金ランキング1位の鈴木愛選手と優勝争いを演じ、盛り上がった。最終日にスコアを崩したイ・ジョンウン6に対し、スコアを伸ばした鈴木の優勝かと思われたが、17番の圧巻イーグルで、同じく優勝争いをしていたイ・ジョンウン6も憧れるシン・ジエに奪われる結果となった。

パーオン率が59.7%とやや低い中で、平均パット数28.00は、普段の彼女の水準と比べると悪い(注:パーオン率が低いほど、平均パット数は少なくなりやすい)。パットがもっと決まっていれば簡単に勝てていた試合だった。

画像: 鈴木愛はいいときよりも構えてから打つまでに「1秒」時間がかかっていたとタナカは分析する

鈴木愛はいいときよりも構えてから打つまでに「1秒」時間がかかっていたとタナカは分析する

大会前、パットへの不安を珍しく語っていたこともあり、注目してみていたが少し精彩を欠いた。いつもの彼女のリズムを感じなかったのでタイムを取ってみたが、以前計測した時のいいリズムよりも平均で約1秒、アドレスしてから打つまでの時間が増えていた。

この1秒はたかが1秒と思うかもしれないが、打つのが早い彼女には割合的に12.5%~30%と大きく、データ的にも大きなずれとなる。無意識の不安が慎重さを生み、本来の強みであった思いっきりの良さがなくなってしまっていたと言えるだろう。今後の課題になりそうだ。

さて、改めて見て、シン・ジエ、イ・ジョンウン6、そして復活が待たれるイ・ボミら韓国女子勢は本当に質の高いスウィングをする。データ的にもとても良く、スウィングの見た目も良い。

画像: 日本女子ツアー初参戦のイ・ジョンウン6は優勝争いを演じ、3位でフィニッシュした

日本女子ツアー初参戦のイ・ジョンウン6は優勝争いを演じ、3位でフィニッシュした

3人共スウィングは驚くほど似ている。バックスウィングではややアップライト(急角度)にクラブを上げ、トップではさらにアップライトになる。ダウンスウィングではトップで開いた右わきを締めながらシャフトをオンプレーンに戻してくる。

結果的に、3人ともインパクトの形は完璧といって良く、超一流の目安となるルール160(腕とシャフトがインパクト時につくる角度が160度以下。つまり、手元の位置が低い)をしっかり満たし、理想的なインパクト角度を保てている。

画像: 手元が低く完璧なポジションのイ・ボミのインパクト(2017年のサロンパスカップ 撮影:大澤進二)

手元が低く完璧なポジションのイ・ボミのインパクト(2017年のサロンパスカップ 撮影:大澤進二)

軌道はフラットで、縦振りではなく横振り。フィニッシュポジションでの手元と頭の距離は遠く、しっかりと遠心力を生かせている。アマチュアの方の多くは横振りすると曲がりそうというイメージをいだいているが、シャフトは縦に使うよりも横に使うほうが、飛距離、安定感、両方の観点から良い。

自然淘汰と同じで、当然いいスウィングの選手の方がツアーでの生き残る率は飛躍的に上がるのだが、ここまで韓国勢に同じスウィングタイプが多いのには正直驚きだ。韓国ではスウィングの理論研究が進んでいて、しかもそれらはかなり共有されているのだろう。さらにコーチがつき、徹底的に型にはめる練習をしていることが伺える。海外のいたるところで熱心に家族、コーチが一緒に練習しつづける韓国勢を良くみたが、やはり他のどの国の人よりもハードに取り組んでいたという感想を覚えた。

アメリカは個人に合わせた徹底的な分業制、そして韓国は徹底した型への追求、練習量が武器だろう。近代ゴルフの答えは科学とデータをみれば、もう出ていると言える。データ、そして科学は勝者の傾向をしっかりと示している。

日本ももう少しそこに目を向け、フィジカル、メンタルとすべてにおいてマネージメントしていく時が来ているのではないだろうか。今の体制では松山選手のような超一流を生み出していくことは容易ではないだろう。そういったプレーヤーが出てくる土台が整っているとは言えない。400ヤードを超えるホールでエースが出そうになったり、1日9アンダーを出すプレーヤーが数人いたり、近代ゴルフのレベルは飽和状態とも言える異次元のレベルまで近づいてきているのだから。


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