1982年に発売されたピンの「EYE2」アイアン。不朽の名作として知られるクラブだが、実はこのクラブ、10年間の間に6、7種類のマイナーチェンジが施されている。その中には、「ベリリウム」という素材で作られたモデルも存在する。そして、その素材選びには、設計者の現代のアイアン作りにも通じる工夫が凝らされていた!

天才は、打感を変えるために素材を変えたりなんかしない

ピンの「EYE2」アイアンは、1982年に発売以来、次のモデルである「ZING」アイアンが出るまでの10年間に100万セット以上販売されたという逸話もある不朽の名作だ。そもそも、10年にわたって同じモデルを販売し続けることなど、今のゴルフ業界では考えられないことである。

画像: 1982年に1stモデルが発売されたPING『EYE2』。17-4ステンレスの鋳造ヘッド。これによって鍛造マッスルとは一線を画す、キャビティヘッドが生まれた。

1982年に1stモデルが発売されたPING『EYE2』。17-4ステンレスの鋳造ヘッド。これによって鍛造マッスルとは一線を画す、キャビティヘッドが生まれた。

ちなみに、同じモデルとは書いたものの、このクラブは実にたくさんの種類がある。ランニングチェンジといって生産を続けながら微妙に改修を進める。同じモデルとして発売されているが、年代によってかなり形が変わっている場合もある。それがピンの創始者であるカーステン・ソルハイム氏の一流のやり方だった。

さらに「EYE2」アイアンの場合、スコアライン(溝)がルール問題に巻き込まれて、改修モデルへのシフトを余儀なくされた。この結果、10年の間に6〜7種類の「EYE2」アイアンが存在するという、後にも先にも例がないゴルフクラブとなったのだ。

94年からは、素材違いのモデルも出ている。「EYE2ベリリウムカッパー」である。ファンの間では、“打感が柔らかい”として未だに人気の高いモデルだ。たしかに、経年変化で飴色に褪色していく独特の素材感はいかにも柔らかそうだ。しかし、カーステン氏はこの意見については「気のせいだ」と否定していた(笑)。

このベリリウムカッパー、オリジナルのステンレス(17-4)に比べ、素材自体の硬度は高いのだという。そして、比重は大きい。強くて、重たい素材、それが天才エンジニア、カーステン・ソルハイム氏がベリリウムカッパーを「EYE2」に採用した理由なのだ。打感を柔らかくしたいなら、いっそ軟鉄で作ってみたほうが良かったんじゃない!? なんて思ってしまうが、おそらく、こんな素人考えもカーステン氏に言えば即座に否定されるだろう。「素材で打感は変わらない。打感を変えるのは構造、そして打球面の厚みだ」と。

比べてみれば一目瞭然! ベリリウムヘッドは“彫り”が深い!

では、ここでオリジナル「EYE2」のステンレスとベリリウムヘッドを比べてみよう。写真は同じ8番アイアンだ。これが同じヘッドに見えるだろうか!? キャビティ(凹み)の段差、ベリリウムのほうが深くなっているでしょう? 「EYE2」のステンレスとベリリウムは、単に素材を変えたモデルではないことがこれでわかるはずである。

画像: 17-4ステンレス(手前)とベリリウム(奥)のヘッド。ヘッドの外周とフェース裏の段差に注目。同じ番手なのにベリリウムは凹みが深い。つまり、フェースが薄いということ。ステンレスをここまで薄くすると割れてしまう。

17-4ステンレス(手前)とベリリウム(奥)のヘッド。ヘッドの外周とフェース裏の段差に注目。同じ番手なのにベリリウムは凹みが深い。つまり、フェースが薄いということ。ステンレスをここまで薄くすると割れてしまう。

カーステン氏は、ヘッドの大きさはそのままで、さらにキャビティ効果(周辺重量配分)を進める方法として、重くて、強い素材“ベリリウム”に目をつけたと考えられる。キャビティ(凹み)が深い、ということは簡単に言えば、フェースが薄い、ということ。フェースに強い素材を用いれば薄く(軽く)できる。これは、現在のチタンやマレージングフェースを採用する理由と同じ。そしてこの結果、ヘッドの外周部(フレーム)に重さを持っていくことができ、比重が高い“ベリリウム”ならば、さらにその効果が高くなる、と言えるのだ。打感云々については、色も相まって、フェースが薄くなったぶん硬い素材でありつつも柔らかく感じられた。その可能性が高いと考えられる。

現在のアイアンは、部分的に軽くて強い、チタン、マレージング、カーペンタースチールなどを用い、重くしたいところには逆にタングステンなどの高比重金属を組み合わせてアイアンヘッドを作っている。カーステン氏の時代も、今も変わらないのは、アイアンヘッドの大きさである。ドライバーのように、無闇やたらに大きくできないクラブだけに、構造、そして素材選びでパフォーマンスを変えるわけだ。

画像: アイアンをソールから見る。一番右が「EYE2」(1982年製)だが、もっとも存在感があり、独創的で最先端に見えるから不思議だ。

アイアンをソールから見る。一番右が「EYE2」(1982年製)だが、もっとも存在感があり、独創的で最先端に見えるから不思議だ。

最新のアイアンと「EYE2」アイアンを並べてみると、その新しさに感心させられる。ソールから見ればとても大きいヘッドだが、構えるととてもコンパクト。時間が経つほどに、その完成度(バランス)、オリジナル性(デザイン)、そしてカーステン氏の先見の明(アイデア)と偉大さ(功績)が際立ってくる。そんな気がしてならない。

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