インターネットテレビ局が「冠」になって何が変わった?
昨年までチャレンジツアーの名前で運営されていたAbemaTVツアー。主催はレギュラーツアーと同じ日本ゴルフツアー機構(JGTO)で、レギュラーツアーの下部ツアーという位置づけです。前年に行われたQT(予選会)の順位などで出場権を得ることができ、成績いかんでレギュラーツアーの出場権を獲得することも可能です。
ここまで12試合中4試合を消化したAbemaTVツアー。メインスポンサーが変わったことで、早くも選手たちの中で変化が生じていました。
競技が2日間から3日間に延ばされたことで、「プレースタイルが変わった」というのは、昨年までレギュラーツアーに参戦していた塩見好輝です。
「試合中に焦りを感じることがなくなりました。2日間競技の場合、ボギーを打つとスコア上もメンタル面でもかなりのダメージになりますが、3日間なら『まだ先は長い』と思えます。だからこそ、安定して技術が高い選手が上位にいくようになると感じます。1日の調子が良いだけでは、結果につながりにくいですね」(塩見)
レギュラーツアーで7勝を挙げ、PGAツアーに挑戦した経験を持つ宮瀬博文も、塩見と同じく「3日間競技は実力が出やすい」と言います。
「レギュラーツアーと同じ予選が2日となったことで、試合勘がそろえやすくなったのが大きいですね。『予選2日間をどう戦うか』という思考でプレーできるので、いざレギュラーに上がった時に順応しやすくなると思います。実力者が上位フィニッシュしやすくなっているという印象です」(宮瀬)
「2日間の予選でそのあとに本戦」というスタイルは、レギュラーツアー以外ではあまり経験することができませんでした。各地で開催されるミニツアーも基本的には1日競技のため、レギュラーツアーのような試合勘を磨くことは難しくなります。その点、開催日が長くなったことは、レギュラーツアーの底上げにもつながる改革だったのではないでしょうか。
開催日以外にも、レギュラーツアーの出場権枠を上位20人に拡大したり、自社のプラットフォームを活かしインターネット中継を入れる、さらには女子プロを参戦させるなどプロモーション部分にも力を入れています。
「インターネット中継が入るようになったことで、名前を覚えてもらえる機会がグンと増えたのがメリットだと思います。(i GolfShaper Challenge in 筑紫ヶ丘で同組で回った)宮里美香さんと同組でのラウンドは、負けたくない気持ちがあって、ちょっと意識しました」(塩見)
「(インターネット中継は)若い人たちに顔を覚えてもらえるし、選手として露出が増えるのは嬉しい。賞金額も上げてもらい、確実に選手のモチベーションにつながっています」(宮瀬)
選手たちからはAbemaTVがスポンサーになったことが好意的に受け止められており、ツアー全体という大きな視点でも、よい循環が生まれていきそうです。「下部ツアーを経験してレギュラーツアーで活躍する」という道筋がより一層整備されたと思います。
AbemaTVツアーのこれから
AbemaTVを運営するサイバーエージェントの調査によると、10代後半から20代の6人に1人は「テレビを見ない層」だといいます。インターネット中継は、週末の決まった時間に地上波のテレビを見る視聴者層とは違ったゴルファーにリーチができており、ゴルフ中継の幅を広げる取り組みだとも言えます。
「最初に男子のプレーを見たときに、そのレベルの高さに驚いた」というのは、AbemaTV編成制作スポーツ局、部長の古川雄太氏です。女子ツアーのサイバーエージェントレディスを主催していることもあり、女子のプレーを見る機会は多かったといいますが、そのパワーや迫力は段違いだったといいます。
「そういった男子にしかないものを僕らは伝えたいと思っています。JGTOの全面協力を得て『見て楽しめる』中継を届けたい。そこに選手目線での解説や、時にはアマチュアゴルファーの意見なんかを取り入れていきたいと思っています」(古川氏)
AbemaTVはまだ開局2年あまりで先行投資をしている時期だと思いますが、こうしたオリジナルコンテンツを作り出し、シナジーを生み出す取り組みを積極的に続けています。
ゴルフ人口を増やしたり、日本ツアーの技術レベルを底上げするのは一朝一夕にはできませんが、長期的な取り組みの歩みは、確実に前進していると言っていいでしょう。