20世紀初頭(1903年)に日本で最初のゴルフ場「神戸ゴルフ倶楽部」ができて以降、ゴルフの人気増加とともに国内のコース数は増加。とくに、日本経済が未曾有の好景気に沸いた1980年代から90年代初頭にかけてのバブル時代には、全国にたくさんのゴルフ場が造られた。
そして、日本ゴルフコース設計者協会会員の佐藤毅さんは「バブル時代に造られたゴルフコースには“ある傾向”がある」と言う。
「当時、多くのゴルフ場のオーナーたちは『自分のコースでトーナメントを開きたい』と考えていました。そのために、プロのプレーが映えるような難しいコースの設計を依頼するオーナーが非常に多かったのです」(佐藤、以下同)
その傾向を、佐藤さんは「オーガスタシンドローム」という言葉で表現する。
世界でも有数のコースに、マスターズが開催されるオーガスタナショナルGCの名前を挙げる人は多いだろう。そしてゴルフ場を造ろうとするオーナーのなかには「オーガスタのように難易度が高く、トーナメントがやれるコースを」という考えを持つ人も少なくなかったのだ。
難易度が高ければ高いほどゴルフ場としてのグレードが上がり、トーナメントを開催できる。そういったオーナーの意向で、バブル時代に造られたコースの多くが“トーナメント仕様”だった。そして、「昔はそういう造り方でも良かったが、今は違う」と佐藤さん。
「当時ゴルフに熱狂し、今でもプレーを続けているアマチュアたちのなかには、もうシルバー世代(70歳前後)の方も多いです。ドライバーで150ヤードの彼らがトーナメント仕様の難コースで楽しめるかと問われれば、ノーでしょう。これは女性やジュニア、始めたばかりのゴルファーにも言えることです」(佐藤)
ただただ難しいコースにアマチュアはなかなか行かない。すると採算が取れなくなり、そういったゴルフ場は営業をやめざるを得ない。ゴルフ場が減少している理由の一つには、バブル時代のオーガスタシンドロームの影響もあるという。
一方で、難しいゴルフ場が多く造られたことで、現在、佐藤さんたちコース設計家の仕事があるという側面もある。新規に開場するコースが少なくなった今、設計家の主な仕事は、コース改造になっているのだ。
「ティグラウンドの配置を前にずらす、バンカーを減らすなど、様々な手を使って、トーナメント仕様の難コースをアマチュアの方にも楽しんでいただけるように改善しています」(佐藤)
トーナメント志向から、プレーヤー目線の老若男女がラウンドして楽しいゴルフ場へ。21世紀の日本のゴルフ場は、静かに変わり続けているようだ。