6年ぶりの勝利を狙った有村智恵とのプレーオフ。3ホール目から左サイドに切ってあったピンが右サイドに切り直され、迎えたプレーオフ4ホール目。ウイニングショットとなったセカンドショットは、左足下がりから右奥のピンに一直線に向かい、方向性と縦の距離感がコントロールされた見事な一打だった。井上コーチは、「あの場面であのショットが打てるのが成田美寿々の強さ」だという。
「フォロースルーでフェースターンを抑えてラインを出す、あのショットは普段から多用しています。彼女の場合、男子プロ的な引き出しの多さを持っている選手。それもただ“できる”のではなく、試合の中で“使える”技術を持っていて、それを優勝争いの中でできるという凄さがあります」(井上)
プレーオフは、ショットで有利に進めていた有村がパットを決め切れないという展開が続いていた。右に切られたピンに向け、左足下がりから打つ状況は、普通であれば保険をかけてピン左に乗せておきたいと考えるもの。しかし、初めてティショットを有村にアウトドライブされ、セカンドオナーとなったタイミングで、成田は勝負を選ぶ。
「左足下がりで右サイドのピンなので普通に考えれば少し左サイドに乗せていってしまいそうな状況ではあります。ただ、絶対にバーディを獲れる位置に乗せなければ次に打つ有村智恵選手がバーディを獲る可能性が高くなる。自分が先にプレッシャーをかける、という意図を感じました。成田美寿々があの局面であのショットが打てるというのは彼女の勝負勘が優れているということを示していて、教えたからできるというレベルのものではないと思います」(井上)
失敗すればピンチとなるリスクをはらんだ一打を選択した決断力。それにふさわしい技術の引き出し。さらに、確実に実行したメンタル。それらが渾然一体となり、ウイニングショットは放たれたというわけだ。
「バーディを獲らなければならない局面でバーディを獲る、狙ってバーディが獲れる選手ってそれほど多くはないですよね。今までも、狙ってバーディを獲りに行って失敗することもあったわけですが、そうであるがゆえに成田美寿々はドラマを作れる選手であり、プレーオフにも強い選手なんだと思います」
井上が「賞金女王を目指すような活躍も期待できる」という成田。その技術の引き出しと、バーディを狙って奪うゴルフで、これからもさらに大暴れが期待できそうだ。
撮影/姉崎正