軸のブレが非常に少ない
ウォルマートNWアーカンサス選手権を、米女子ツアー初優勝に加えて日本人最年少というおまけ付きで畑岡奈紗が制した。男子でも米ツアーで小平が今年初優勝しており、日本勢の海外での活躍が期待される。では、2位と6打差3日間トータル21アンダーの圧倒的な強さで優勝を決めたそのスタッツを見てみよう。
1日平均7アンダーととんでもないスコアなだけに、そのスタッツがどのようなものかは容易に想像がつく。ショットの安定感を示し、スコアへの相関がかなり高いパーオン率は89%でほぼ90%と驚異だ。統計的にみて、優勝者のパーオン率がだいたい75%前後ということを考えてもこの数字がいかにすごいか分かるだろう。3日間通してほぼすべてのグリーンをとらえている感覚だ。
フェアウェイキープ率も85%と非常に高い。平均パット数もほとんどのグリーンを捉えつつ、27.6という脅威の数字である(※編注:パーオン率が高いとパット数は増える傾向がある)。
ドライバーの飛距離も3日間平均で274.5ヤードとかなり飛んでいる。米女子ツアーの今季の平均飛距離1位がヤニ・ツェンの276ヤードということを考えると、今大会での畑岡の平均飛距離がいかに凄いかが分かるだろう。ちなみに男子ツアーに換算すると316ヤードに相当し米ツアーでもランキング3位に相当する飛距離ということになる。
3日間で唯一ボギーを叩いたのがなんとスコアの稼ぎどころであるパー5にもかかわらずこのスコアをだした畑岡選手の今大会でのパフォーマンスは驚異だ。では、その飛距離と安定性の両方を生み出しているスウィングを分析してみる。
トップはフラットワイド(編注:手の位置が低く、頭から離れている)で理想的であり、インパクトの角度もR160(編注:インパクト時の腕とクラブの作る角度が160度以内に収まるという、筆者が発見した超一流選手の共通項)を当然満たしており理想的だ。スウィングプレーンは限りなくストレートに近い。
畑岡選手のスウィングで特徴的な点は4つだ。まず、トップでの拳と頭の距離である。この距離は遠い方が遠心力を生み、飛距離に直結する。そういった意味で私は常々フラットでワイドなトップポジションを推奨している。分かりやすい例はリッキー・ファウラー、トミー・フリートウッド、そしてローリー・マキロイだ。
次に注目したいのが軸のぶれなさだ。アドレスからトップにかけてほとんどのプレイヤーが少し頭を沈めたり、右にシフトする中、畑岡選手の頭はトップまでほぼ動かない。
私の行った統計的スウィング分析の結果から言えることの1つに軸の定義がある。スウィングにおいて軸はどこにあると考えるのが良いのか? それは第7頚椎(けいつい)だ。わかりやすく言うと首の根本で出っ張っている骨である。ここを軸と考えるのが統計的には正しい。
頭という認識でも大きく間違いはないと言えるだろう。畑岡選手の軸はアドレスからインパクトに向けてほぼ一切のブレがない。安定したショットの1つの大きな要因はここにあると言える。超一流のスウィング分析の結果、軸に関して100%共通して言えることはトップからインパクトにかけて軸が飛球線方向に動くプレイヤーがいないということだ。飛球線方向への横のブレはゴルフスウィングにおいてタブーだということだ。
では、一応細かいルールをかいておく。アドレスからトップにかけて、頭が下がる、右にずれる(右利きの場合)のは統計的には問題ない。ただ、トップポジションからインパクトにかけては飛球線方向へのブレはアウト。
また、沈む、右に頭を傾けるというのも問題がない。つまり、よく言われる壁の意識というのは腰でも、脚でもなく左耳線上に持つのが正しいのだ。インパクトまではその左耳の線を飛球線方向に動かしてはならない。
畑岡選手はこの軸のブレが本当に少ない。安定感のあるショットの源だ。
そして畑岡選手はダウンからフォロ-にかけて左足を強く蹴りジャンプする動きも特徴的だ。これは男子トッププロに多く見られる飛ばしの秘訣の1つだ。女子プロでここまで強く蹴っている選手は少ない。畑岡選手は左足がフォローにかけてずれるほど強く蹴っている。
特筆すべきはこれほど強く蹴っているのにもかかわらず頭の高さのブレが非常に少ないことだ。つまり前傾角度をしっかりとキープしながら左足を強く蹴れており、安定感を保ちつつ、最大限のパワーを出すことができているのだ。
最後の1つのポイントはフォローでの早いたたみである。一般プレイヤーの平均に比べかなり早く畑岡選手はクラブをたたむ、これはダスティン・ジョンソン、バッバ・ワトソン、マキロイと同じレベルだ。データ的にも、理屈でもこの早いたたみは飛距離を伸ばすのに有効と言える。畑岡選手の飛距離はこのインパクトからフォローにかけての早いたたみがクラブヘッドのより良い加速に役立っている。
ダウンスウィングでのタメよりも、フォローにかけてのたたみの方が比較的実現しやすいので練習場で試してみてはいかがだろうか。最初は大きく曲がるかもしれないが、体得すると飛距離アップにつながる。
安定性とパワーを兼ね揃えた畑岡選手の今後には大いに期待できるだろう。
撮影/姉崎正