「サッカーの場合、とくに欧州では“ライグラス”という芝を使うことが多いのですが、今回のロシアW杯で用いられているのは、ペレニアルライグラスという草種です。いわゆる“冬芝”と呼ばれる寒冷地型の芝のひとつで、天然芝に人工芝を繊維を織り込んだハイブリッド芝が多く採用されています」(秋篠さん)
ライグラスと聞いてピンときたらその人はゴルフ通。冬場、フェアウェイなどを緑に保つために冬芝を“オーバーシード”することがあるが、それに多く用いられるのがこのライグラス。冬場に限らず、標高の高い場所にあるコースなどでは、フェアウェイの芝として採用されている場合もある。つまり、サッカースタジアムとゴルフ場で使われている芝が同じ品種、なんてことも決して珍しくないのだ。
しかし、ゴルフ場のフェアウェイとサッカースタジアムのピッチだと、見た目の印象はちょっと異なる。これは一体、なぜなのか。
「“刈り高”の違いでしょうね。まずゴルフ場ですがグリーン・フェアウェイ・ラフとそれぞれ芝の種類や刈高が違います。フェアウェイの刈り高は10〜15ミリ。それに対して海外のサッカースタジアムの刈り高はおおよそ15〜25ミリ前後と10ミリ前後も違います。ちなみにロシアW杯では24ミリで統一しているようです」(秋篠さん)
ゴルファー用語で言えば、ロシアW杯を戦う選手たちは、“ファーストカット”くらいに刈り揃えられた芝の上で熱戦を繰り広げているというわけだ。そして、どちらも芝の上でプレーする競技だからこそ、その管理には大変気を使うという。
「W杯では各チーム不公平にならないよう会場をできるだけ同じ状態にする必要がありますが、スタンドと大きな屋根により日照が悪い上、クッション性などを厳密に数値化する必要があるため、管理が非常にシビア。またビッグイベントになれば、直前までスタジアムを作っていることもあります。そういう時はスタジアムの外で芝の畑を作って、直前にそれを植え替えるなんてことも。一方のゴルフ場の場合、とにかく広い! そして、トーナメントならば18あるグリーンすべての硬さと速度を同じ状態にする必要があります。どちらも大変なんです」(秋篠)
芝はもちろん脇役だ。しかし、主役であるプレーヤーがベストのパフォーマンスを発揮するためには、その脇役の存在は決して侮れるものではない。スタジアムで、ゴルフ場で、選手たちの文字通り足元を支える、芝を管理するスタッフたちに感謝しながらサッカーもゴルフも楽しみたいものだ。