打ち込んだときにすぐなすべきことは
十年前にとんだアルバトロスをしでかしました。富士チサンCC駿河コースの1番、パー5、483ヤード。ヨーヤッサンですから忘れません。やや右ドッグレッグで右サイドの私の第2打地点からグリーンは杉木立の陰で見えませんでした。入会して2度目、距離感がなく、数字の上でも届くはずなしと打ったのが、強く低いフェードボールとなり、緩やかなダウンヒルと富士山からの順目にのって奇跡が起こってしまったのです。
私も初ですが、コースとしても初めてだということでした。早速、乾杯の宴になったのかというと、とんでもない。グリーン周辺に私のボールがないので探してみると、次のティにいた前の組から「カップの中だよ」の声が飛んできました。「なにっ、2つで入ったんか、それなら許すわ。わしがショートパットしようと構えていたら、ツーッときて先に入っちゃってよ、わしのは外れちゃっただよ」と言って笑ってくれました。奇跡も祝杯もあったものではありません。打ち込みはゴルフで最悪のミスショット。大罪です。平身低頭、侘びの言葉を繰り返すばかり。
前の4人は気のいい地元のメンバーたちでした。上がってから売店で土産を4個見繕い、渡してくれるようフロントに頼んでおいたところ、最前の人が「早速の内祝いをありがとうさん」と礼を言いに来られました。「祝いじゃありません」と私はただひたすら平謝り、「お詫びと、許してくださったお礼です」
相手が悪かったら家まで追いかけられるところでした。前の組の人たちが穏やかな静岡の人であったとはいえ、もしボールが足にでも当たっていたら険悪な局面になっていたでしょう。当たりどころと球の勢い次第では、その人も私もそのあとで難儀なことになっていたかもしれない。不幸の崖っぷちすれすれの危うい1打でした。それはアルバトロス以上の幸運でした。アドレスしていた人のショートパットが外れたことは申し訳ありませんでしたが。
私の謝り方が言い訳やアルバトロスのはしゃぎが先に立つようなものであったとしたら、前の組の人たちの口にあんな冗談ではなく、穏やかな許しもなかったに違いありません。
私が打ち込まれる側になることがあります。あの時の前の組の表情を思い出し、あの幸運への恩返しのつもりで、対応するようにしています。謝罪が迅速で丁寧で、すべきことをしていれば、笑顔で返します。遠くから声を上げ、手を上げただけで済ませる人には、次に近づくチャンスかクラブハウスで声をかけて注意してあげます。
遠くから手を上げ、声を上げるのは仮の謝罪です。次にすべきことは、早く表情の見えるところまで急いで行って正式に謝り、正式に許してもらうことです。そうしないと前の組の不愉快は収まらないし、自分も許されたことが分からない。許しを得てはじめて謝罪は成立するものです。
この道理を穏やかな顔を絶やさないように話すことを、60代後半に入ってから年寄りゴルファーの務めと心に決めています。「オッカナイ人たちの組でなくてよかったじゃありませんか」と笑って言えば、分かってくれます。
「ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より
写真/三木崇徳