アイアンといえばスチールシャフト! という人も少なくないが、近年はカーボンシャフトの進化が著しく、アイアン用カーボンシャフトも良いものが増えてきた。そこで、アイアンのカーボンシャフト5種をプロゴルファー中村修が試打してみた。

ある程度パワーのあるゴルファーにとって、アイアンのシャフトはスチール一択、スチールの中からダイナミックゴールドか、モーダス3かNSプロ950かといった調子でモデルを選ぶ、というケースが多いはず。実際、男子プロを見てもアイアンのカーボンシャフトを使用しているケースは極めて少ない。

一方で、女子プロの中には軽量スチールではなくある程度重さのあるカーボンシャフトを選ぶケースは少なくない。設計自由度の高さがカーボンシャフトの大きなメリットなのはアイアンでも同じことで、より自分のスウィングや打ちたい球筋を追求するならば、当然カーボンが選択肢に入ってくるからだ。

画像: 写真上から、グラファイトデザイン「ツアーAD AD-85」、USTマミヤ「アッタス FF IRON 85」、三菱ケミカル「OT TOUR Iron i80」、フジクラ「MCI 80」、エアロテック「スチールファイバー i80」

写真上から、グラファイトデザイン「ツアーAD AD-85」、USTマミヤ「アッタス FF IRON 85」、三菱ケミカル「OT TOUR Iron i80」、フジクラ「MCI 80」、エアロテック「スチールファイバー i80」

そこで今回は、人気のアイアン用カーボンシャフトを打ち比べ、その実力をテストしてみた。試打者はプロゴルファーの中村修。ヘッドはロイヤルコレクション「SG-10 TOUR」の7番を使用して実験を行った。

試打したのはすべて80グラム台のSシャフト。そのスペック選びの意図を中村はこう説明する。

「純正のカーボンシャフトは50〜60グラム台が多く、90グラム台以上のスチールシャフトも一般的です。一方で、70〜80グラム台のシャフトは選択肢が必ずしも多くない。アイアン用のカスタムカーボンシャフトは、そこをピッタリ埋めてくれる存在なんです」(中村)

カーボンでも100グラム以上の重量級シャフトもあるが、70〜80グラム台のシャフトは、カーボンの軽さと弾性などのメリットをもっとも感じられやすい。また、純正カーボンだと軽すぎるけど、軽量スチールはちょっと重いといった層には最適解になり得るわけだ。

画像: 使用したヘッドはロイヤルコレクション「SG-10 TOUR」の7番。オーソドックスな形状でクセがなく、軟鉄鍛造で手に伝わる打感は最高。あえて研磨跡を見せた仕上げもカッコいい!

使用したヘッドはロイヤルコレクション「SG-10 TOUR」の7番。オーソドックスな形状でクセがなく、軟鉄鍛造で手に伝わる打感は最高。あえて研磨跡を見せた仕上げもカッコいい!

と、前置きはこれくらいにして、各モデルの特徴を見ていこう。

弾く! 上がる! もっともカーボンらしい性能「ツアーAD AD-85」

まずはグラファイトデザイン「ツアーAD AD-85」。ドライバー用シャフトとしてお馴染みの「ツアーAD」のアイアン用シャフトだ。

画像: グラファイトデザインの「ツアーAD AD-85」。IZカラーだ(7番アイアン用シャフトの重量は89グラム)

グラファイトデザインの「ツアーAD AD-85」。IZカラーだ(7番アイアン用シャフトの重量は89グラム)

打つや否や「やさしいですね」とつぶやく中村。カーボンシャフトの大きなメリットとして、ボールを弾いて高く上げてくれるというものがあるが、まさにその通り。カーボンの性質を生かして鋭くしなり戻ったボールが、次々にボールを空高く運んでいく。

「スチールに比べるとしなりが少ないんですけど、小さいしなりでしっかり弾いてボールを捉えて、上げてくれます。どちらかというと先端が多少しっかりしていて真ん中から先端くらいがしなるのかなという印象です」

今回試打した5モデルは、ボールを弾いて上げてくれる“カーボンらしいシャフト”と、ボールを押し込んでラインを出せる“スチールっぽいシャフト”に大別できるが、このツアーADはもっとも“カーボンらしい”シャフトだという。

“番手ずらし”で調整幅最大「アッタス FF IRON 85」

続いてはUSTマミヤ「アッタス FF IRON 85」。ツアーAD同様に、ドライバー用人気シャフトのアイアン版だ。

画像: USTマミヤ「アッタス FF IRON 85」(7番アイアン用シャフトの重量は85グラム)

USTマミヤ「アッタス FF IRON 85」(7番アイアン用シャフトの重量は85グラム)

このシャフトは、どちらかというと“スチールライク”な挙動が特徴のシャフトと言える。弾くというよりは粘る挙動で、ボールをポーンと上げるのではなく、インパクトでクラブヘッドをググッと押し込み、低弾道でライン出ししたくなるような動きを見せる。

「方向性がいいですね。どちらかというと手元がしなるシャフトで、重量感をしっかりと感じられます」

ちなみにこのシャフトは“番手ずらし”と呼ばれる組み方をすることで、弾きの具合を調節することが可能。それ次第で弾き系にもアレンジできるし、反対にスチール的なフィーリングを足すこともできる。今回試打した5モデルの中で、もっとも調整の幅の効くシャフトと言える。

カーボン入門に最適なクセのなさ「MCI 80」

お次は、アイアン用カーボンシャフトとして近年高い人気を誇るフジクラの「MCI 80」。これを中村は「素直なシャフト」と評する。

画像: フジクラ「MCI 80」(7番アイアン用シャフトの重量は86グラム)

フジクラ「MCI 80」(7番アイアン用シャフトの重量は86グラム)

「カーボンシャフト特有のはじき感やしなり戻りの速さはあるんだけれども、それが強すぎなくて自分でコントロールできる。少し低い球だったり、フェードやドローに打ちたいとき、それに反応してくれる。コントロール性が非常に良いと言えます」

分類するならば、ツアーADに次いで“カーボンらしい”シャフトだと言えるが、実はこのシャフト、先端に金属が入ったコンポジットシャフト。先端を重くすることで、スチールシャフト的な重量感がありながら、弾く、球の高さを出すというカーボンらしい性能は残している。その意味で、スチールからカーボンへの移行が非常にしやすいシャフトになっているのもこのシャフトの良さだ。

PGAツアー選手も使ってる!? 「スチールファイバー i80」

エアロテック「スチールファイバー i80」は「方向性が非常に良くて距離も出る上に、曲がらない。飛ばそうと思えばしっかり飛ばせるシャフトです」と中村。

グラファイトデザイン、USTマミヤ、フジクラ、三菱ケミカルといったビッグネームに比べると聞きなれないメーカーだが、実はこのシャフト、セガサミーカップで優勝したブラッド・ケネディが使っていたり、PGAツアーのトップ選手で日本ツアーにも複数参戦しているブラント・スネデカーが使用し、国内ツアーでも使用者が増殖中という話題のシャフトなのだ。

画像: エアロテック「スチールファイバー i80」(7番アイアン用シャフトの重量は85グラム)

エアロテック「スチールファイバー i80」(7番アイアン用シャフトの重量は85グラム)

「真ん中から先端寄りにかけて重量感があります。手元から中間部がクセなくしなる、スチールシャフトでいえば“モーダス3 ツアー125”に似たフィーリングですね。振ったら振っただけ飛ぶシャフトと言え、ヘッドスピードがある人にオススメできます」

カーボンにチタンを巻きつけるという独自の製法のモデルだが、その性能は高く、今後さらに注目されそうなシャフトだ。

もっともスチールに近いカーボン「OT TOUR Iron i80」

最後の三菱ケミカル「OT TOUR Iron i80」は「今回の五種類の中では一番“めくれる球”が出ています」と中村。

画像: 三菱ケミカル「OT TOUR Iron i80」(7番アイアン用シャフトの重量は88.5グラム)

三菱ケミカル「OT TOUR Iron i80」(7番アイアン用シャフトの重量は88.5グラム)

「ツアーADやMCIが高い打ち出し角でドーンと飛んでいくのに対し、スピンによってめくれるような弾道が打てます。これは、シャフトが粘るような挙動をすることで、しっかりと上から打ち込んでいくことができるから。そういった意味で、もっともスチールライクな性能をしていると言っていいと思います」

ここでふと何か思いついたような顔をした中村。「今回は80グラム台のSシャフトで揃えたけど……ちょっとヘッドスピードを落として打ってみます」

画像: ヘッドスピードを落として再びOT TOURを試打する中村

ヘッドスピードを落として再びOT TOURを試打する中村

そう言って再びOT TOURを手に取った。普段ドライバー47m/s前後の中村だが、40m/s前後に落として打つ。驚くべきことに、球の高さに大きな変化はない。「やはり、ヘッドスピードが速くなくても、十分にOTの良さを味わえますね」と中村。

他のシャフトもヘッドスピードを落として計測してみたところ、スチールファイバーもヘッドスピードが遅くても性能を引き出せるということがわかった。スチールシャフトに比べ、対応ヘッドスピードの幅が広いのも、カーボンシャフトの特徴といえそうだ。

最後にまとめると、今回試打した5モデルは、ツアーAD>MCI>アッタス>スチールファイバー>OT TOURの順にカーボンらしい弾く・上げる性能が高く、逆にOT TOURやスチールファイバーは、カーボンのしなやかさがありながら、スチールのような振り心地が得られるシャフトになっている。

デメリットとしては、スチールシャフトよりも値段が高い点があるが、それ以外のデメリットはもはや見当たらない。食わず嫌いをせずに試してみると、飛距離アップや球の高さのアップにつながる可能性は大いにありそうだ。

撮影/姉崎正 取材協力/ニュー南総ゴルフ倶楽部

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