設計家の意図を読み解くためには?
良いスコアを出すためには地力を高めることも大事だが、ラウンドするコースを知り、攻略法をみつけることも重要だ。
ツアープロや上級者たちの戦略もとても参考になるが、実はコース攻略について一番熟知しているのはコースデザインを手掛ける設計家。なぜなら競技性のあるコースを作るということは、設計段階で“攻略法”もちゃんと用意しているということだからだ。コース設計家の佐藤毅さんはコース設計の手法として「設計段階で攻略法を複数用意する」ことがあると話す。その時に重要な役割を果たすのがフェアウェイバンカーだ。
「たとえばティショットの地点から見えるバンカーってありますよね。たとえばまっすぐのホールで右側にバンカー、左側が安全地帯といった配置だとしたら、多くの人は左側に打つと思います」(佐藤、以下同)
もし右側(バンカー側)に打ったとするとバンカーにハマるリスクや、上手く避けられたとしてもバンカー周辺の地形によって次のショットが見づらくなったり、遠近感が狂わされるリスクがあると佐藤さん。
こんなシチュエーションではバンカー側を避けて打ちたくなるものだが、かといって安全な左側に打つのが100%正解なのかと言われれば、そういうわけではない。
「この場合はグリーン手前左側にもバンカーを配置します。そうすることで、ティショットでバンカーを避けたプレーヤーは再度バンカーを避けるために右へと寄せなければならないでしょう。そうするとグリーンオンには3打かかる。一方でバンカー側に打ったプレーヤーにはスプーンなどで2オンできるチャンスがあります」
ティショットで安全な方へ打てば打数が増えてしまうが、危険な方に打てば打数を減らす機会を得られる。つまりフェアウェイバンカーを起点として「安定をとる」か「リスクを負ってでもスコアを縮めるチャンスをつかむ」か、2つの選択肢が用意されているということ。
コース攻略の道筋が分かれば「前半でミスしてしまったからスコアをまとめたい」なら安全な左側へ、「今日はベストスコアを更新できるかも!?」という時は右側へボールを運ぶなど、その日の調子によって攻略ルートを選ぶことも可能だ。
また、飛ばせるプレーヤーほどセカンドショットが難しくなるようなハザードの配置にすることで、飛距離の差をなくすような難易度調整も設計家の仕事だと佐藤さん。飛距離も技量も異なるゴルファーたちそれぞれに攻略ルートを用意し、楽しませるのが腕の見せ所だ。
また、ギミック(仕掛け・策略)一辺倒では息が詰まってしまうもの。たとえば400ヤード超の長いパー4であればギミックを減らして爽快感を重視するなど、プレーヤーが楽しめるような配慮をすることも忘れていない。
その意図のすべてを読み解くのは難しいが、まずはティグラウンドから見えるフェアウェイバンカーの配置から、コースの攻略法を想像するだけでも、面白い。
撮影/小林司