第147回全英オープンはスコットランドのカーヌスティゴルフリンクスで開催された。カーヌスティからゴルフの聖地と言われるセントアンドリュースまではクルマで1時間弱。「どうしても、プレーしたい」そう願ったプロゴルファー・中村修が聖地でのプレーに挑む実録レポート!
現地でセントアンドリュースは“予約”できるか
セントアンドリュースオールドコース。『明日天気になあれ』やテレビ中継で観た、ゴルファーなら一度はプレーしたい憧れのコース。せっかくスコットランドに来たのだから、ぜひプレーしに行きたい。
全英オープン終了後にプレーしに行けばいいのだが、ちょうど全英シニアオープンが開催されるためプレーはできないから、全英の期間中に行くしかない。とはいえ、月~水曜日の練習日には、松山英樹をはじめとする日本人選手10名と世界ランク上位の選手、そしてタイガー・ウッズを見て、レポートを編集部に送る必要がある。
そうでなくても、コースのチェックや天候の移り変わりなど、興味も含めて見ておかなければならないことが盛りだくさんで、練習日の間にセントアンドリュースには行けなさそう。日曜日、最終日は目が離せないだろう。となると決勝ラウンドの始まる土曜日の朝しかない。
全英オープンの取材の合間に、セントアンドリュースの予約サイトをチェックすると、プレー日の2日前にエントリーすると抽選でプレーできる権利が当たると書いてある。現地でチェックしてみたところ2名からのエントリーになっているようだが、他に一緒に行く人はいない……予約は断念。
聞けば、予約は1年前から可能とのこと。もっと早く予約しておけば良かったと後悔しても時すでに遅し。コース内にある「オールドコースホテル」に宿泊するとプレーできるようだが、これも今からでは手配が間に合わない。
予約ができないとなると、早朝にスタート小屋の前に並ぶ方法になる。キャンセルが出た組や、2サムや3サムの組に組み合わせてくれるという当日ウェイティングがあるという。もはやこれに最後の希望を託すしかない。
セントアンドリュースに電話して聞いたところ夜中2時や3時に来たほうがいいとのアドバイスを受けた。カーヌスティからセントアンドリュースまでは1時間ほどかかるから、夜中の1時には出発しなくてはならない。
金曜日、16時5分にスタートし、21時過ぎにホールアウトした市原弘大選手に話を聞き、1日分の取材を終えて借りていた家に戻ると、時刻は22時過ぎ。予選落ちした日本人選手たちの取材メモをまとめて編集部に送り、2時間ほど仮眠。
結局、カーヌスティを出たのは夜の2時半と、少し出遅れてしまった。セントアンドリュースまでグーグルマップを頼りに暗闇の道を走ること1時間。海っぺりの道を突き当たるとセントアンドリュースのコースにたどり着いたようだが、真っ暗でよくわからない。
探すこと10分、薄明るくなったころに散歩中の男性に聞いてやっと並ぶ場所を確認。車を停めて向かおうとすると建物から人が出てきた、まだ3時半なのに。「プレーしに来たなら車はここではなくて路上の駐車スペースに停めるように」と。車を移動してスタート小屋に向かいながらその建物を振り返るとそれはR&A(英国ゴルフ協会)だった。
小屋に着くと小屋の前に私と同じ“キャンセル待ち”と思われるゴルファーが毛布にくるまって地面に寝ていたり、椅子に座っていたりとたくさんの人が並んでいた。列の最後を聞いて並ぶと、32番目だと教えてくれた。時刻は3時50分。椅子を調達してとりあえず待つことにした。
6時になると小屋のスタッフが現れて椅子を元の位置に戻すように言われ、小屋へと導いてくれた。一人ずつ名前とハンディキャップを証明するカードや携帯の画面を見せて受付をしキャディをつけるかどうか確認された。もちろんキャディ付きにした。キャディフィは50ポンドにチップが20~30ポンド。1万円から1万1500円くらいか。あとは呼ばれるのをひたすら待つのみ。
一番に並んでいた人に話を聞くと「前日の夜7時半から並んだよ」。朝9時になって残り何人か聞いてみたところ12人との答え。練習グリーンで時間を潰して、結局10時半に呼ばれた。プレー代180ポンド(約2万7000円)を支払うと、オールドコースのネームの入った巾着袋を渡され1番ホールに向かった。袋の中身はコースガイド、スコアカード、ティ5本、ボールマーク直しなどが入っていた。
セントアンドリュース市民は年間200ポンド(約3万円)でセントアンドリュースにあるコースは回り放題。さらに200ポンド支払うとクラブのメンバーになることができ、競技に参加できるそうだ。手引きのカートや担ぎでキャディをつけずにプレーしている人は恐らく地元のゴルファーなのだろう。しかし、私はビジター。仕方なく、いや、喜んでお金を払う。
聖地でのプレーは、もうすぐそこだ。憧れ続けたティグラウンドは、目の前にある。
スタートを待っている間に練習グリーンでボールを転がした感じではグリーンは速くない。9フィートくらいの感覚。全英シニアオープンが始まる頃にはもう少し速くなっていることだろう。
続々とプレーヤーたちがスタートしていく。自分の番はもうすぐそこ。もう大丈夫。確実に回れる。なんだか現実ではないようだ。
いよいよ1番ホールのティグラウンドに立つ。R&Aの建物を背にした1番ホールは18番ホールとフェアウェイを共有していることから、とにかくだだっ広い。芝の刈り方で1番はティからグリーンに向けて順目に、18番は逆目に刈られているせいでかろうじてコースが浮かんでくる。
同伴するプレーヤーは米国人の二人組と米国人の夫婦(ただし、奥さんはついて歩くだけ)、と私。キャディはフェンという18歳のスポーツジャーナリズムを学ぶ大学生だ。夏の間は実家に戻ってきてここセントアンドリュースでアルバイトキャディを務めている。
コースに一礼する。全英オープンは土曜日のプレーがとっくに始まっている。大会の主役とも言えるタイガー・ウッズはスコアを伸ばすだろうか。日本人選手たちはどのような戦いを見せてくれるのか。そして優勝の行方は……と、取材者の頭からプレーヤーの頭に切り替える。
いよいよティショット。目の前には、待ち望んだセントアンドリュースの18ホールが広がっている。ゴルファーとしての夢がひとつ叶おうとしている。