3回目となる全英女子オープン出場に向けイングランドのマンチェスター空港に降り立った比嘉が直面したのは預けた荷物が届かないという思いもよらない緊急事態だった。
7月31日の本人のツイッターには「クラブは届かないし、ホテルの一階で大音量でコンサートしてて寝れないし、そしてBeautiful Dayっていうフレーズを繰り返しているし、明日はBeautiful Dayになってくれーっ」と海外での不安な心境が吐露されている。
その後無事バッグが手元に届いたが精神的には万全というわけにはいかなかったはず。ところが迎えた初日、馴れないリンクス(ロイヤルリザム&セントアンズ)で絶妙なパットを沈めまくり7バーディ、1ボギーの6アンダー66の好スコアをマーク。トップに立ったミンジー・リーに1打差の単独2位と絶好のポジションを確保した。
テレビ中継ではアナウンサーが「マミコ・ヒガはプロフェッショナル・スモウ・レスラーとの婚約を発表しています」と言及。現在日本ツアーのメルセデス・ランキングで1位、賞金ランク4位につけていることにも紹介された。
ラウンド後本人は「今日は私の良いところを出すことができました。いいリズムでプレーできたと思います。リラックスして18ホールを楽しめました」と納得の表情。「メジャーで戦うのは夢なのでこのまま良いプレーがしたい」と明日以降の好プレーを誓った。
アマチュア時代から彼女の実力には皆が一目置いていた。抜群の飛距離で12年のプロテストに合格すると翌年には期待に応え早くもツアー2勝を挙げ「米ツアーに挑戦したい」と海外志向を口にしていた。
しかし次第に前途に暗雲がたちこめる。14年には1勝もできず、15年はまるで別人のように17試合連続予選落ちのどん底を味わうことに。ドライバーは曲がりスコアメイクにならない。目を覆うようなプレーの連続に周囲も「いったい比嘉になにが起こったのか?」と首を捻った。
だがじつはそのとき比嘉は「ティグラウンドイップス」に陥っていた。パッティングイップス、アプローチイップス、ドライバーイップスなら聞いたことがあるし、その“病”を抱えながらトーナメントで闘っているプロは大勢いる。だがティグラウンドイップスなる言葉は聞いたことがない。
比嘉と親しい関係者によると「ドライバーだけではなく、たとえばパー3でアイアンのティショットを打つときにも平常心ではいられなくなる。とにかくティグラウンドに立つことが苦痛で苦痛で仕方なかったのだそうです」。
16年も予選落ちの山を築いたがシーズン終盤になってようやく光明が射す。最終戦の大王製紙エリエールレディストーナメントで4日間60台を並べて単独2位に入るなど呪縛から解放されると、ちょうど1年前のNEC軽井沢72ゴルフトーナメントで4年ぶりに優勝を飾って完全復活を遂げたのだ。
さらに婚約を発表した今シーズンは、KKT杯バンテリンレディスオープンですでに勝っており出場20試合中トップ10入り13回、メルセデス・ランキングトップを快走するなど絶好調だ。その影にはもちろんフィアンセ勢関の精神的な支えもあるだろう。
全英リコー女子オープンはまだ始まったばかり。前途には茨の道が待ち受けている。だが逆境を跳ね返しどん底から這い上がったプレーヤーは強い。ティグランドイップスを克服し、ロストバッゲージを乗り越え「明日はいい日になりますように」と前を向く比嘉に期待して良さそうだ。