メンタルは技術と一緒に磨く
ゴルフはハーフで2時間前後、1ラウンドで約4時間という、他のスポーツと比べても、かなり競技時間の長いスポーツです。ところが、実際のショットにかかる時間はほんの数分。つまり、プレーをしているよりも、頭で考えている時間のほうが、圧倒的に長いのです。これが「ゴルフはメンタルのスポーツ」といわれる所以でしょう。
プロゴルフの世界で、メンタルトレーニングの重要性が認識されたのは、スポーツ心理学の博士でメンタルトレーナーのボブ・ロテラ氏が書いた本が話題になったのがきっかけです。その後、氏のトレーニングによって、ニック・プライス選手とトム・カイト選手がメジャーのタイトルを奪取し、一躍注目を集めることになりました。
日本では米女子ツアーで実力を発揮できずにいた宮里藍ちゃんが、アニカ・ソレンスタム選手を育てたピア・ニールソンとリン・マリオットの指導を受け、一気に米女子ツアーの頂点に駆け上がり、以来、メンタルの重要性がゴルフ雑誌などでも取り上げられるようになりました。
多くのアマチュアはメンタルというと、何か体のなかに眠っている潜在能力を引き出す催眠術的なものや、魔法のようなイメージを抱いているかもしれませんが、その考え方は間違い。メンタルは魔法ではありません。
私自身も、以前メンタル指導を受けていましたが、先生に、「メンタルトレーニングをしたからといって、誰でも短時間で必ず結果が出るわけじゃない。体を鍛えるトレーニングと一緒で、日々の積み重ねが大事だよ」とよくいわれたものです。
私が行ったトレーニングを紹介すると、まずラウンド後に、その日のベストショットとミスショットの、打ったときの状況や心理状態などを思い出し、細かく書き記します。それを積み重ねていくと、ナイスショットとミスショットの出やすい状況が明確になってくるので、ミスになりやすい状況を克服する技術的な練習を徹底的に行うのです。
具体的にいうと、当時、2段グリーンに苦手意識があり、イップスのような症状になったことがありました。2段グリーンはアメリカでは多いですが、日本のまんじゅう型グリーンで育った私にとっては、なかなか上手く攻略できなかったのです。
これを克服するために、まず、確実に上の段に乗せる練習をしました。寄らなくてもいいし、グリーンをオーバーしてもいい。とにかく、上の段まで打つ。それができるようになったら、次はカップを必ずオーバーさせ、奥にボールを集める。このように、ステップを踏んでいくと、少しずつ自信がつき、最終的にはカップに寄せられるようになって、自然と苦手意識を払拭することができたのです。
イメージしたことをイメージどおりにできる技術はあるのに、できない。それはメンタルの影響で技術が発揮できないからです。私が行った2段グリーンのトレーニングのように、メンタルと技術を一体化させることが大切なのです。
メンタルトレーニングで300ヤード飛ばそうというのは無理ですが、アプローチのときに、ある状況だけザックリするとか、OBや池が見えると思いきりよく振れない、といったことで起こるミスは、メンタルと技術を一体化したトレーニングで克服することが可能なのです。
「ゴルフは100球打つより見てなんぼ!」(ゴルフダイジェスト新書)より
撮影/姉崎正