ゴルフ場で理事長を務める人となれば、社会的にもひとかどの人物である場合が多く、ゴルファーとしても、人間としても一流である場合が多いとゴルフマナー研究家・鈴木康之は言う。自身の著書「ゴルファーのスピリット」から、そんな理事長たちの横顔を紹介。

いい顔して来ていい顔して帰る

いいゴルフ倶楽部は人を育てる。よくそう聞きます。いいゴルフ倶楽部にはいい人が集まっていて、互いの徳が互いを感化しあうからでしょう。球を打ち興じながら人間修養ができる。ゴルフとは結構な嗜みごとです。そういういい人たちから、ぜひと推されてなる人が理事長です。あっちこっちの倶楽部で話を聞くと、どうも理事長役の御人とはゴルファーの中のゴルファーだと思えてきます。

たとえばとある名門コースで総支配人までを勤め上げた方が、歴代の理事長に仕えた半世紀を述懐していました。「誰ひとりとしてカミナリを落としたことがありません。どころか理事長って人はどうしていつもあんなにニコニコなのだろう、と不思議なぐらいでした。仕事では鬼の某と恐れられた方もおられて、随行してくる秘書や社員はピリピリしていましたよ。理事長のほうも随行者と話すときは別の顔なんですが、こっちを向くと目が細くなっているんです」

ある理事長が「俺は一介のメンバーであって、ここのオーナーじゃないんだよ。お当番でやってるまでさ。楽しいのさ。」というのを聞いて、その方は得心がいきました。

画像: 良い倶楽部は人を育て、ゴルファーを育てるという。(写真はイメージ)

良い倶楽部は人を育て、ゴルファーを育てるという。(写真はイメージ)

別の名門倶楽部の友人からも理事長賛美を聞きました。その方は、激務の中、委員会、理事会は皆勤だったそうです。引き受けたからにはの責任でしょう。腕前のほうも月例二勝のほか上位たびたびの歴代中最強の理事長でした。

「冗談にですらタラレバの類、あっちが痛いこっちがどうの、愚痴言い訳は聞いたことがありません。プレーが速くてね、さっと先にフラッグを持たれてしまう。細やかに気配りされ、こまごまと仕事をなさるんですが、にこにこ悠然とおやりになるもんだから、つい若い私たちが遅れをとります」

電車組は十九番ホールを程よいところで切り上げ、缶ビールを一本ずつ買って在来線の四人掛けシートへ。後輩たちはここで人生講話を期待するのですが、理事長のほうがいつの間にか聞き役に回ってにっこり笑って聞いているということになるのだそうです。

「細やかな気配りといえば あるときの車内、いつものようにピーナッツで缶ビールをやっていましたら、理事長が屈みこんで腕を伸ばし、いつの間にか落ちていた床のピーナッツを拾い上げた。それがさりげなくて、人の話を中断させない気配り。で、なにもなかったように笑って聞き続けているんです。そのスマートさに打たれて、私その時は話のほうは耳に入らなくなりました」

朝、いちばんいい顔をしてクラブハウスに踏み込み、そして夕べ、にっこり笑って手を振って帰って行く。そうではない人に理事長の笑顔はこう呼び掛けているのでしょう。君はゴルフ場に何しに来たの。ゴルフ場から何を持ち帰るのかな、と。

「ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より

撮影/中居中也

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