現在の日本のコースでは乗用カート(プレーヤーとキャディバッグを乗せて走る)でのプレーが一般的になっているが、ひと昔前までは、キャディさんを含めたプレーヤーが歩きでプレーすることが一般的だった。
その頃は、ボールを打った後に砂をかける“目土”はもっぱらキャディさんの役目として認識されていた。ところがセルフプレーが一般的となった現在においては目土はプレーヤーの役目となっている。
自ら目土袋をデザインし販売もしているギアライターの高梨祥明さんに、そもそもなんで目土をする必要があるのか、話を聞いた。
「傷ついた芝生に砂をかけることは、擦り傷にバンドエイドを貼るのと同じだと思います。処置が早いほど修復も早いそうです。傷つけた本人が処置するのが一番早い。プレー中、砂を持ち歩いているからこそ、それができるのだと思います」(高梨)
目土をした周りの芝から茎が伸びることで、削り取られた部分はより早く修復される。目土をするべき理由は、なんといってもコース保護だ。それはかつてキャディ業務に含まれていたが、セルフプレーになって状況が変化している。
「セルフプレーは、キャディ業務のすべてを自分でやります、という条件で安いプレー料金でプレーすることだと思います。クラブの運搬、管理を自分で行うだけじゃなく、安全管理、コース整備(目土、ピッチマーク直し、バンカーならし)、そしてプレー進行の管理までを責任をもって請け負う。セルフの意味についてもきちんと説明されていない、それも残念に思うことの一つです」(高梨)
セルフとは「キャディ付き」に対する「キャディなし」ではなく、キャディ業務の「セルフサービス」だというわけだ。
「私は、知人のメンバーコースに頻繁に行くようになってから、ゴルフ場のゲートをくぐったときに『お邪魔します』と意識するようになりました。ゴルフ場は人の家であり、庭である。そう考えると、ジャケットを来てクラブハウスに入ったり、コース上でも自分がつけた傷は、補修しなければいけない、そういう気持ちに自然になるのだと思います。習慣になってしまうと、目土バッグをカートに置き忘れただけで不安になります。目土には中毒性があると思いますよ」(高梨)
どのコースもキャディさんたちが最終組が出た後に目土袋を持って歩いて目土をすることは一般的だが、セルフだけのコースではそもそもキャディさんはいない。そこでコース近隣のゴルファーがボランティアで目土をし、その回数によってプレー権を得るシステムを採用するコースもあるようだ。
プロゴルファーの中村修は、自身がプロ入りする前の“目土の思い出”をこう話す。
「プロ入り前、コース所属の研修生は地区の研修会の成績によってプロテストに出場できるという制度がありますが、その研修会ではブレザー着用、目土袋を持参、遅刻厳禁という3つの約束がありました。一つでも忘れると研修会には参加できず、上位でプロテストに臨むことはできなくなります。そのおかげで、いつも目土袋を積んでおくのでトランクが砂だらけでした」
中村が所属していたのは太平洋クラブ成田コース。そこにはある名物メンバーがいたという。
「俳優の前田吟さんがメンバーで、よくお見かけしました。前田さんはとにかく目土をする方で、プレー中もカートには乗らずにずっと歩いて目土を徹底的にやって、笑顔で帰られていました。目土に中毒性があるというのもうなずけますね」
目土には、コースを保護するという意味と、もうひとつ後続の組のボールがディボット跡に入る不運を減らすという2つの意味がある。ゴルフに運不運はつきものだが、ディボットだらけのコースでは楽しさも半減してしまう。
同伴プレーヤーに対してだけでなく、後から来るプレーヤーのことを考えることも大切なゴルフマナー。ショットの際に目土袋を持っていくプレーヤーが増えれば、確実にコースはよくなるはず。ただショットの後に砂をかけるだけのこと。次のラウンドから、ぜひトライしてみよう!
※一部訂正致しました(2018.08.30 11:03)