だいじなラフをカートで踏むな
ピーターズクラブは私の本の極意を実践しようというゴルファーの集まりです。茨城県古河の河川敷に集って、目土袋を下げてセルフで回ります。コースには乗用カートもありますが、みんな手引きのトロリーです。前屈みになって黙々とトロリーを引いて行くシルエットは河川敷ならではの風物詩。プレイファストに努めていると、真冬でも二つ目のホールあたりで身体が中からほかほかしてきます。
真夏には日影が必要ですから乗用カートを使うこともあります。足腰の不調者やプレイファストに息が上がる人は乗用カートを使ってもいいし、使うべきでしょうという申し合わせです。私もあと何年歩き組でいられるか知れません。そう思えばなおさらのこと、元気の恵みに感謝しながら、そしてリンクス然とした土の硬さを足裏に感じながら、カートを引いて歩いています。
と、嬉しがって歩き回っていましたが、手引きカートの要諦を教えられて、ちょっと気持ちが締まったことがあります。先生はコースの設計家(の異端児と呼ばれている)迫田耕さんです。長い英国修行から帰り、古河のピーターズクラブに現れました。
「日本のゴルファーにはフェアウェイが大切に扱うところで、ラフは言葉通りラフなところっていうイケナイ偏見があります。気遣いしてフェアウェイを避けて意図的にラフを通って行く人もいますね。せっかくだけどそれって逆なのよ。ラフにトロリーで入って行っちゃいけません。フェアウェイは訳があって刈り込んであるところでしょ。ラフも同じように訳あって自然のままに伸ばしてあるところなんです」
自然の野っ原の一部をプレーのために刈り込んだのがフェアウェイ。長い草のままにしているのがラフ。
「そのラフを踏み、トロリーを引いていくと、轍を作ってしまうし、草を寝かせちゃうじゃないですか」それはコースの意図に反するし、自然破壊とさえ言えるというわけです。
「向こうのラフにはだいじな植物が生えています。浅いラフでも自生のヘザーが這うように伸び、いっぱい薄紅色の花をつけています。バターカップという黄色の可愛い花も群生しています。ラフは自然のままのところだということが、見た目に分かりやすいからだれも無闇に踏み込みません」
耕さんの話を引きとると、日本のラフでも同じこと、ゴルフ場の都合で刈り込んであるけど困難なエリアというゲーム場設定の趣旨からラフの真似事としてわざわざある長さを残しています。それを無闇に、不用意に踏み、草を寝かせることははばかるべきことなのです。
たしかに向こうのラフと違って日本のラフには花の数が少ないことは少ないけれどそれでもよく見れば花があります。たとえ花がなくてもラフはラフ。長く育った草の葉に思い抱くべきです。
カートはフェアウェイを行き、ボールがラフの中ならカートはフェアウェイに置いて使用クラブだけ持ってラフに入っていく、というのがゴルフコースとの正しい付き合い方です。手引きカートは手と頭で引くものなんだなぁ、耕さんにはそう教えられました。
「ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より
撮影/小林司