左肩と左腕の作る角度がアドレスよりインパクトの方が大きい
「ギアーズ」のような3Dモーションキャプチャーの登場により、スウィング中の体やクラブの動きの解析が、現在急速に進みつつある。PGA(米男子)ツアーの選手など、トッププロのデータが蓄積されるにつれ、従来はわからなかったスウィングの秘密も明らかになってきている。
その一例が、左肩と左腕が作る“角度”に隠されたインパクトの秘密だ。
「スウィングは人によって千差万別ではあるが共通点もあります。それはインパクトで左肩と左腕で作る角度がアドレス時よりも大きくなっていることです」
そう「ギアーズ」創設者のマイケル・ネフは言う。左肩と左腕で作る角度が大きくなるとは、一体どういうことだろうか。ネフが来日して開催した、“ゴルフエンジニアリングセミナー”を受講したプロゴルファー・中村修に解説してもらおう。
「まずはタイガーのアドレスとインパクトの画像を見てみましょう(画像1)。赤い線に注目してみると、左肩と左腕の作る角度がアドレス時よりもインパクト時のほうが、角度がわずかながら大きくなっています。ネフが『ギアーズ』を使って分析したところ、この角度が大きくなることが米ツアーの選手の8割超に共通しているというのです」(中村)
タイガーのスウィングを例に挙げたが、これは「タイガーはこのように振っている」というだけに留まらず、トップ選手たちは皆、このように振っているのだという。
だとすれば、なぜこのような現象が起こるのかが気になるところ。再び、中村に解説してもらおう。
「切り返し以降、下半身がねじり戻されることで、左腕は左胸に巻き付くようにくっつきます。腕はトップの位置に置き去りのまま、体が回転することでこのようになるのです。そして、左胸にくっついた左腕は、そのままインパクトを迎えるのではなく、一旦くっつくものの、その後離れながらインパクトを迎えるんです。最終的には、アドレス時よりもさらに離れた状態となるから、角度がアドレス時より大きくなるというわけです」(中村)
さらに掘り下げよう。なぜ、切り返し以降一度左腕が左胸にくっつき、それがインパクトにかけて再び離れるのか、だ。
「ダウンスウィングでは、骨盤、胸骨、前腕、クラブの順に動くのが正しいというのは多くの人が理解していると思いますが、様々な研究から、インパクトまでの間に、今度は骨盤、胸骨、前腕の順に減速が起こることがわかっているそうなんです。骨盤が先に動くことで左腕が左胸に付き、次いで骨盤が減速することで、最終的には腕とクラブのリリースが起こり、ヘッドスピードが上がって体からクラブが離れていく。結果、左腕が左胸から離れ、角度が大きくなるんです」
ちょっと難しい話になってしまったが、クラブを加速させながら打つためには、インパクトで左腕と左胸の作る角度が大きくなるように振るのが効率が良く、だからこそPGA(米男子)ツアーの80%以上の選手が、このスウィングの共通点を持つのだという。
読者のみなさんも同じ感想を持つと思うが、アマチュアが真似するのは難しい。しかし、切り返しで骨盤、胸骨、腕、クラブの順に動き出すのが正しい動きであるのは紛れもない事実。そして、そのように動き出したダウンスウィングは、同じ順序で減速することでクラブヘッドを加速させインパクトを迎える。
プロがよく、「切り返しからはフィニッシュまで体を回し続けるのがいい」といったことを言うが、感覚的にはそうだとしても、事実としては、切り返し後インパクトにかけて体の回転力を伝達させるために止まりはしないが減速し、その後インパクトからフィニッシュにかけて再び回転する。
3Dモーションキャプチャーなどの最先端機器によって見えてきたゴルフスウィングの本当の姿。これからも、まだまだ新たな発見がありそうだ。
取材協力/エンジョイゴルフ&スポーツジャパン
写真/姉崎正