PGAツアーのプレーオフ第三戦「BMW選手権」で惜しくもプレーオフの末破れたジャスティン・ローズが、ダスティン・ジョンソンをギリギリかわし、初めての世界ランク1位の座についた。ローズを世界ランク1位にまで押し上げたものはなんだったのか、プロゴルファー・中井学が分析。

17歳で全英4位に入った少年が、20年の時を経て世界ランク1位に

1986年からスタートした世界ゴルフランキングにおいて、NO.1の座についた選手は22人しかいません。38歳での世界ランク1位は、その歴史の中でも偉業と言っていいのではないでしょうか。

ご存知の方も多いと思いますが、ローズは17歳のときに全英オープンで4位となったことで大きな話題となり、直後にプロ入り。しかし、プロ入り後は17戦連続予選落ちという地獄の苦しみを味わうことになります。

画像: ローズが全英で4位になったのは1998年。それから20年、17歳の少年は38歳にして世界ランク1位に(写真は2018年の全英オープン 撮影/姉崎正)

ローズが全英で4位になったのは1998年。それから20年、17歳の少年は38歳にして世界ランク1位に(写真は2018年の全英オープン 撮影/姉崎正)

若いうちの苦労は買ってでもしろと言いますが、この言葉はローズにこそ当てはまると私は思います。キャリアのごく初期に辛酸をなめ、そのときに、自分には何が足りないのか。なぜ、それができないのか。自分の弱さとしっかり向き合ったのだと思います。

自分の欠点を把握することは、自分のストロングポイントを把握することでもあります。ゴルフにおいてこれは極めて重要なこと。欠点を知れば成長することができますし、長所を知れば不調時に早く復調することができるからです。

ローズの場合、環境を変え、コーチを変えても、この自分自身の欠点と長所をつねに把握するという作業を怠った形跡が見られません。結果、早熟の天才だったローズが、晩生のいぶし銀選手として世界ランク1位にまで上り詰めることができたのです。

それを端的に表しているのがパッティングにあると私は見ています。BMW選手権で、ローズはテーラーメイドのアードモアというマレット型パターに、ラムキンのフラットキャットというグリップをつけ、右手指をグリップ正面に被せるように持つクロウグリップでパターをグリップしていました。

画像: マレット型パターにフラットなグリップを差し、ストレートな軌道でヒットする“今年の”ローズのパッティング(写真は2018年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

マレット型パターにフラットなグリップを差し、ストレートな軌道でヒットする“今年の”ローズのパッティング(写真は2018年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

2016年のリオ五輪の際は、オーソドックスなブレードタイプのパターで、グリップもナチュラルなものを採用。つまり、今と全然違うんです。ローズは、パッティングに関してグリップもパターも頻繁に変える選手です。

私は、ローズのウィークポイントは、バーディパットをもう一つ決めきれない点にあると思っていました。しかし、このようなマイナーチェンジを通じて、常にその時の自分にもっともアジャストするものを見つけ出すことで、今シーズンはパッティングの指標がツアー11位。4から8フィートのパットの成功率は、ツアー全体で堂々の1位。結果、平均バーディ数2位の成績につなげています。

画像: リオ五輪ではブレードタイプを使用。翌2017年、マスターズで2位になった際はテーラーメイドの「アーク1」という大型マレットを使っていた。毎年違うのに、毎年結果を出すのがすごい

リオ五輪ではブレードタイプを使用。翌2017年、マスターズで2位になった際はテーラーメイドの「アーク1」という大型マレットを使っていた。毎年違うのに、毎年結果を出すのがすごい

一方、スウィングでは近年ショットの前にトップからクラブを真下に落とし、そこから振り切るルーティンを取り入れ、愚直なまでにそれを繰り返しています。おそらく「このイメージで振れば、大丈夫」という確たる自信があるのでしょう。

変えることで常に最適な状態にアジャストさせるパッティング、そして変えないことで常に一定の感覚で振ることのできるルーティン。このメリハリに、ローズの強さの秘密があります。

また、ローズは毎年契約先のテーラーメイドのニューモデルをいち早く取り入れることでも知られます。ニューモデルはときに前モデルとガラッと性格が変わることがありますが、ローズは苦にしません。アジャスト能力と、なんでも受け入れ可能な芯のブレなさ、両者を併せ持つからです。そしてもちろん結果も出す。最高の契約選手と言えるんじゃないでしょうか(笑)。

変える強さと変えない強さ。ふたつの強さを持つローズは、これからもっと強くなる予感すらします。

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