「もともと香妻選手はパターの天才です。その天才の状態をどう作っていくかという作業でした」
そう語るのは、脳の状態をリアルタイムで解析できる器具「フォーカスバンド」を販売する株式会社 エンジョイゴルフ&スポーツジャパン代表の佐々木信也。先月末、香妻はこの器具を購入。プロジェクターでボールの軌道を可視化するシステム「パットビュー」と組み合わせることで、徹底的にパッティングの状態を可視化した。
「たとえば香妻プロは、ボールに真っすぐの線を引き、それを真っすぐ打つことを意識していたそうですが、それはイメージを作る上では一番よくないんです。真っすぐ打つだけではなく、どういう転がしをしたいかを可視化し、可視化したものをどう作るかが大切なんです」(佐々木)
そのために行ったのが、脳の状態をモニタリングしながらのルーティンやセットアップの確立だった。それにより、スムーズな動きを妨げているものをひとつひとつ取り除く過程で、香妻に“気づき”がもたらされたようだ。
「元々感性の人だと思うんですが、技術的なことよりも、意識の持ち方で変えられるんだっていう話をしてくれているらしくて、それは嬉しいですね」(佐々木)
さて、もう一人のキーマンが、パッティングのレッスンを得意とするプロゴルファー・大本研太郎。8月から香妻のパッティングを指導し、5戦連続予選落ちの苦境から約1カ月で初優勝にまで導いた人物だ。一体どんな魔法を使ったのか。
「香妻プロもそうですが、多くの女子プロは情報過多になっているんです。僕は、脳の整理をしてあげただけ。どれかひとつに集中させるということが大切なんです」(大本)
佐々木も述べていたように、香妻はもともとトップ選手と比較しても遜色のないパッティングスキルを持っていた。多くの情報をインプットしすぎることでフィーリングが失われていたところを整理することで、本来のパフォーマンスを取り戻すことができたのが、今回の勝利につながっている。
「最終日の18番のバーディパットにしても、本人に聞くと入れるつもりはなかったそうなんです。これがよかった。『何が何でも入れるぞ!』っていうのがないほうがいいんです。そのことで、右脳モード、イメージモードで打つことができるからです。右脳モードでパッティングをするためには、大事なのはバランスです。どうすればアドレスのバランス、ストローク中のバランスが崩れないか。選手にはそこを説明しています」(大本)
もともとあった天性のパッティングセンスを、適切なコーチングと最新の機器の力を借りて取り戻した香妻。パットの不安が克服されたことで、アプローチやショットも本来の輝きが戻り、その光はさらに増しているように感じられる。
ツアー屈指の人気プロが本当の実力を発揮するのはこれから。そんな予感に満ちている。