「女子プロの契約金が高騰して、クラブ以外の契約金で彼女たちのお金が潤沢になったということは大きいと思います。それにより、(特定メーカーの)クラブに縛られる必要性がなくなった。そういった状況の中で、クラブ契約フリーの選手が増えているんだと思います」
そう語るのは、成田美寿々、穴井詩という二人の“契約フリー女子”を教えるティーチングプロの井上透。
「(指導するプロのうち)詩と美寿々では状況が大きく違います。美寿々の場合、アマチュア時代からモニター(注:メーカーからクラブの提供を受け、その感想をフィードバックするアマチュア選手)になったことがなく、プロになったときもいろいろなお話をいただいたが、クラブの契約金をいただかないで賞金で稼ぐというのが成田家の考え方でした。
一方、詩の場合は(所属先の)ゴルフ5がプロ用のクラブを作るのをやめたことでクラブ契約フリーという状況。彼女には、自分の戦うクラブを選択できるってことだからポジティブに考えればいい結果になるかもしれないよね、という話をしました」(井上)
“自分の戦うクラブを自分で選ぶ”そのことのメリットを強調するのが、クラブフィッターとしても活躍するティーチングプロの関雅史。
「クラブ契約フリーのほうが基本的には有利だと私は思います。若い女子プロは、ジュニア時代からモニターなどをしている関係でプロ入りしてもそのままそのメーカーと契約を結ぶケースが多く、契約金やツアーでのサポートなどのメリットがあります。しかし、(クラブ契約フリーの)シン・ジエ選手やアン・ソンジュ選手などは、もうそういった領域にはいないんでしょう」(関)
アマチュアがプロになった際、クラブ契約がなければ、ツアーで“孤軍”となってしまう。クラブの手入れをしてくれて、わからないことを教えてくれ、相談にも乗ってくれるであろうメーカーのツアースタッフは、若手女子プロにとってこの上なく頼りになる存在だろう。
しかし一方で、トップクラスの選手ともなれば、たとえ契約していなくてもクラブを提供してもらえたり、クラブを調整してもらえる。そうなると、なにもわざわざ契約に縛られる必要もあるまいと考えるのも自然というわけだ。
「たとえばジャスティン・ローズは高打ち出し・低スピンを指向するメーカーであるテーラーメイドと相性が抜群ですし、ダウンブローで打つバッバ・ワトソンはボールが浮きやすいピンのクラブと相性がいい。プロとメーカーには相性のいい・悪いがあります。それでも、ドライバーからパターまで、全部の相性がピッタリというケースはそう多くありません。だからこそ、契約フリーには優位性があるんです。すべてのクラブを自分にピッタリ“寄せられる”メリットは大きいですから」(関)
井上も、関とほぼ同じ見解を述べる。
「過去にはクラブで上手くいかなくてシードを落としてしまったり、ダメになったりというケースが多くあります。それほど道具っていうのは選手の技術に寄り添った、繊細なもの。契約をしているとメーカーの開発に選手のフィーリングを合わせる必要がありますが、そういった“クラブが変化することによってのリスク”を回避できる契約フリーは、とても有効な選択肢になると思います」(井上)
現在の賞金ランクを見ると、1位のシン・ジエ、2位のアン・ソンジュ、5位の成田美寿々が前述の通りクラブ契約フリー女子。3位の鈴木愛、4位の比嘉真美子がピンの契約選手だ。もちろん、クラブ契約を交わしている選手が活躍していないかといえば、そんなことはまったくない。
2018年の賞金女王は躍進する契約フリー女子が射止めるのか、メーカーの期待を背負い、手厚いサポートを味方につけたクラブ契約女子がその座に座るのかも、注目だ。