アジア・パシフィックアマに勝ち、来年のマスターズ・全英オープンの出場権を獲得。日本オープンでは2年連続3回目となるローアマ(アマチュア最高順位)を獲得……最強アマチュアの座を確固たるものにしている金谷拓実。彼のゴルフそしてナショナルチームの取り組みについて、ナショナルチームのコーチ、ガース・ジョーンズに聞いた。

「ナショナルチーム」とは日本ゴルフ協会が派遣する海外試合の日本代表の選考母体となる選手団で、1984年「世界アマチュアチーム選手権」で日本代表が優勝したのを機に発足した団体だ。これまでに片山晋呉、池田勇太、宮里藍、横峯さくら、宮里美香、松山英樹、畑岡奈紗らが選ばれ、ゴルフの技術だけでなく体力、栄養学、英会話、ゴルフ規則講習など、年に数度の合宿を行なっている。

この、日本の将来有望な選手を育てるナショナルチームに2015年10月、豪州ゴルフ協会ナショナルチームコーチでの実績が買われてヘッドコーチとして招聘されたのがガース・ジョーンズ(豪州)。先日「アジアパシフィックアマチュア選手権」で優勝し、マスターズと全英オープンへの切符を手にした東北福祉大2年の金谷拓実も、彼の指導のもと実力を伸ばしている選手の一人だ。いったい彼は、どのような指導を行なっているのだろうか?

画像: 日本オープンの練習日、会場の横浜CCで話を聞かせてくれた

日本オープンの練習日、会場の横浜CCで話を聞かせてくれた

「技術的なスイング面で大事なのは、“パワー・反復性・安定感・怪我をするリスクを減らす”ということだ。体の柔軟性も大事な要素ではあるが、人によっては柔軟性がありすぎる者もいるので、ケースバイケース。

正しい体の動き、前傾角度をキープして行う体の回転が大切で、正しい体の動きができれば正しい手の動きをも生む。体の前傾角度も大事だが、腕の機能的な動きも大事だし、基礎が大事。セットアップ、方向取り、前傾角度などが最も大事な基本となってくるんだ。

もし体の動きが正しくないと思えば、もう一度基礎に戻ってチェックしている。ジュニア向けに基礎を教えるプログラムは年々よくなっているよ」(ジョーンズ)

ジョーンズがコーチに招聘された直後に、日本のナショナルチームは「ノムラカップ・アジア太平洋アマチュアゴルフチーム選手権」で26年ぶり9度目となる優勝を飾っているが、この時ジョーンズは「大会への事前準備と徹底したゲームプランの構築」を選手たちに実践させたという。

大会前にノムラカップが開催されたUAEの気候情報を収集し、熱中症への対策をレクチャー。練習ラウンドでは打っていい場所といけない場所を明確にし、「ゼロライン」というホールロケーションに対して上りの真っすぐなラインのパッティングが打てる地点などあらゆる情報をヤーデージブックに書き込ませて緻密なゲームプランを作り上げたが、こうした取り組みを構築することにより日本のトップジュニアたちは世界レベルで戦うことができるようになったのだ。

画像: 日本オープン開催前の月曜日から入念に練習を繰り返していた

日本オープン開催前の月曜日から入念に練習を繰り返していた

「ナショナルチームの中でもタクミ(金谷拓実)やケイタ(中島啓太)はワールドクラスのジュニア。彼らのトーナメントに対する準備もすばらしく、ヤーデージブックを入手したらいつも通りチェックポイントを確認して、情報を書き込む。試合に臨む準備のルーティーンがきちんとできていて、手際よくこなしているね。

天気や他の選手のスコアのこと、スタート時間など、自分ではコントロールできないこともあるが、そんなことに気を揉んでいてもフラストレーションがたまるばかり。タクミは自分がコントロールできることは準備を重ねてコントロールできている。彼は今までに会ったアマチュアの中でもメンタルがとても強い選手だ。コーチの僕とのコミュニケーションもうまく言っているし、英会話でのやり取りも問題ない。少し事前に準備ができれば、外人記者からの英語の質問にも自分で答えることができる。

タクミはアジアアマで優勝し、マスターズと全英オープンに出場するが、僕もできるだけのことをサポートしたい。ケイタも全英オープンのクオリファイを通過して一緒に出られるといいなと思う。彼らはお互いをリスペクトし合い、刺激しあって上達している。

日本人のコーチたちと、僕が導入しているナショナルチームのプロジェクトをともに共有し合いながら、ジュニアの正しい育成に力を入れていきたい。2020年にはオリンピックもあるから、そのことも念頭に入れて日本人アマチュアがもっと世界の舞台で活躍できるようになるといいと思っている」

また、ジョーンズは一人の人間としての人生をジュニアたちに説いている。

「まずは一人の人間としての人生が大事、その次にスポーツだ。日本人は最初にスポーツがきて、人生は二の次になってしまうことが多いけど、素晴らしいアスリートになるには、家族やゴルフ以外のことにも目を向け、ゴルフばかり優先的に考えるというのはよくない。バランスが大事。海外のトッププロたちも人生とゴルフのバランスがうまくいっている。

調子が悪い時もあるから、オン・オフの切り替えが大事だし、時には休みを取ることも必要。そういうこともナショナルチーム のメンバーには日々伝えている。世界で活躍できるような選手にはそんなに簡単に短期間で慣れるものではない。忍耐も必要だし、いつも思い通りにことが進むわけではないことを認識させることも大事だ」(同)

画像: 東北福祉大の大先輩・宮里優作(右)と金谷の2ショット。優作も近年は海外に積極的に参戦。日本のゴルファーのグローバルな活躍は、現在のナショナルチームメンバーの世代でさらに加速しそうだ

東北福祉大の大先輩・宮里優作(右)と金谷の2ショット。優作も近年は海外に積極的に参戦。日本のゴルファーのグローバルな活躍は、現在のナショナルチームメンバーの世代でさらに加速しそうだ

「偉大なゴルファーも、その前に一人の素晴らしい人間であれ」

海外のトッププロたちからもよく聞かれる話だが、そのような国際感覚や目標に向かって何をすべきか、どのような準備をしなければいけないのか、などの明確な指針をジュニアたちに示しているガース・ジョーンズ。

彼を招聘したことをきっかけに、日本の将来有望なジュニアたちに「自分たちも海外で優勝できる」という実績と自信を与えたことは非常に大きい。宮里藍が世界ランク1位になり、松山英樹が世界最高峰のPGA(米男子)ツアーで優勝、メジャーでも活躍しているのを見ても明らかだ。金谷拓実、中島啓太を筆頭とする今後の日本のジュニアたちの活躍に注目だ。

Text&Photo/Eiko Oizumi

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