仲間内でのコンペ開催は準備から大盛り上がり。ハンディキャップからルール形式まで話し出したらきりがない。しかしあるゴルファーは「ハンディなんか要らないじゃないか」と話す。ゴルフマナー研究家・鈴木康之の著書「ゴルファーのスピリット」からエピソードをご紹介。

はったりなしの近況報告コンペ

早生まれの組も還暦入りした年の春、わけあって数十年途絶えていた中学校の同窓会が予想外の数の参加者で賑わいました。幹事が案内状につけた「みんな揃ってオールド一年生」のキャッチコピーが効いたのかもしれません。

定年間近になって球打ちを始めたのが一人いて、「ゴルフって楽しいねぇ」とはしゃいだのがきっかけ、コンペ開催へと盛り上がり、十数名が手を挙げました。コースに顔の利く医者Aがその場から電話して会場は即決。そこから先の二次会はさながらコンペ準備会となりました。

画像: ハンディなし、勝ち負けなしのゴルフコンペは楽しい会となりそうだ(写真はイメージ)

ハンディなし、勝ち負けなしのゴルフコンペは楽しい会となりそうだ(写真はイメージ)

ハンディキャップの話になると自己申告と足の引っ張りあいで話は進みません。会社で総務だったBが「キャロウェイだな(編注:キャロウェイ方式=ハンディキャップの決め方のひとつ)」と決めにかかりますと、商店会コンペの名幹事と自称するCがぴしゃり、「この場合はダブルペリア(編注:同じくハンディキャップの決め方)に限る。公平で誰からも文句が出ない」

そういうそばから、文句が出ました。商社OB、英国帰りとやらのDです、「ハンディなんか要らないじゃないか」ハンディキャップを肴に騒いでいた酔っ払いどもの口が止まって耳だけになりました。もはや豪華賞品の提供を外に強請(ゆす)れる肩書きも権威もない老人会。さりとて賞品のために会費を上げるのは気が進まない。それを幸いとしよう。もう賞品なんか要らないんじゃないか。

言われてみればそれもそうだ。一拍おいてみんなの頭がうなずき始めました。Eが「もう飛距離以外欲しいもんはないもんな」と言い、Fが「年寄りには楽しい一日があれば十分だよ」と殊勝なことを言って周りの同感を誘いました。

ぺリアの公平性、あるにはある。時と場合によっては便利だろう。しかし、ぺリアの成績順位を決める隠しホールの当たり外れというものは、ゴルフに付きもののボールの在り様の運不運とはちょっと異質なものだ。プレーを終わってからくじ引きしているのと然程(さほど)の違いはない、とDが知的なことを言う。

数十年会っていなかったクラスメイトにゴルフの深淵に触れるこんな話をするゴルファーがいたことに、私は言い様のない喜びを覚え、手を伸ばして握手したい衝動に駆られました。しかし負けてはいられないという邪心が働いたのでしょう、私が口を滑らせました。

「スコアなんかつけないことにしたらどうかかねぇ」

それはDの予期していなかった提案だったらしく、一瞬手のグラスを見つめて間をとりましたが、すぐに言葉が返ってきました。

「半世紀近く前、多摩川の河原で草野球して遊んでた、クリクリ坊主だったのが、再開して、しゃれてゴルフをするんだ。それだけで愉快じゃないか。始めたばっかの下手もいる。仕事をさぼって腕前を上げた上手もいるだろう。相変わらず口ばっかの奴もいるだろう。スコアはちゃんとつけようよ。それが、近況報告ってものだ。ただし、勝ったの負けたのの話はなしで」

酒に酔い、愉快に酔い、ゴルフに酔って、この晩の酔いは私の中から何日たっても抜けませんでした。

「ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より 

※2018年10月23日午前10時35分、内容を修正しました

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