たとえば、いくらトッププロでも深いラフから思うがままにボールを操ることはできません。そのため、ボールが深いラフの中、なのにピンはすぐ目の前といった状況では、あえてピタリと寄せることは諦め、グリーンに乗せることを優先させるのです。それによりダブルボギーの可能性を排除し、パーの可能性を残しつつ、ボギーを確保する。
もちろん、優勝争いの真っただ中であれば一か八かを狙うこともあるでしょう。しかし、安定した成績を残すプロ、つねに上位争いに顔を出すプロほど、安全策をとることを恐れないものです。
さて一方。ゴルフ場でもっとも勇気あるプレーヤーはどんな人でしょうか。それは、たとえどんな難しい状況に置かれてもつねにピンだけを見つめ、そこに寄せる(あわよくば入れる)ことだけを考える人、すなわち我々一般アマチュアゴルファーです。
ゴルフの難しいところに、つねに可能性はゼロではないということがあります。タイガー・ウッズが10回打って1回しか寄らないようなライから100が切れないアマチュアが打った場合でも、100回、1000回に1回だとしても、どういうわけだがピタリと寄る可能性はゼロではなく、トップしたボールがピンに当たってカップインすることもあります。だから、どうしてもその幻想的可能性を期待して、“勝負”してしまう。
これは、ゴルフの魅力であると同時に、文字通りの“難しさ”です。まるでギャンブル中毒者のように、「今度こそ上手くいくんじゃないか」と、それしか考えられなくなる。結果、ミスを重ねてスコアを崩壊させてしまう。根拠のない、“今度こそ寄るかもしれない”という思い。それはゴルフというゲームの難しさそのものと言ってもいいかもしれません。
たとえばグリーン奥からのアプローチ。ボールからエッジまで10ヤード弱、エッジからピンまでは距離がないという状況。かなりの打ち上げで、ピンはフラッグが見える程度。幸いにも、ライは平らで、格段打ちにくくなさそうな浅いラフにボールはあります。
フィル・ミケルソンならば、伝家の宝刀のロブウェッジで天高く打ち出し、ピン横にズドンと落として拍手喝采を浴びるでしょう。そうでなくても、フワッと浮かせたり、手前の土手にワンクッションさせたりしたくなる状況です。でも、言わずもがな、それらのショットが成功する確率は高くありません。
考えるべきは、今グリーン奥にいるのなら、前のショットはミスだったと認めることです。ミスをしたんだから、そこからいいスコアで上がることはできません。できることは、粛々と傷口をふさぐこと。これ以上の出血を防ぐことだけ。
前掲の状況であれば、キャリーでピンを越えても構わないくらいの気持ちで、まずはグリーンに乗せる。乗せさえすれば、そこからの2パットはある程度計算が立ちます。これができれば、スコアは確実に守ることができます。
100を切りたいゴルファーにとっては、たとえピンチでなくとも、つまりどんな状況でも「寄せる」ではなく「乗せる」という意識でプレーする。もちろん簡単なことではありませんが、それができれば、きっと好結果につながるのではないでしょうか。
(『100切りマネジメント研究所』より)