両手を“グー”で握るとゴルフが簡単になりケガをしない
テンフィンガーは「ナチュラルグリップ」という別名どおり、自然な握り方です。ジュニアゴルファーが自然とテンフィンガーで握ってしまう理由のひとつは、ゴルフクラブが重いからです。クラブをトップの位置まで上げていくテークバックの動作は、重力に逆らう動きでもありますから。
両手合体型のオーバーラッピンググリップでクラブを上げている子は、どうしても力が入らず、ヨロヨロしてしまう場合が多いんです。非力な女性やシニアでもそれは同じで、テークバックが不安定でトップの位置が打つたびに異なるというアマチュアをよく見かけます。これは単純に、両手合体型で、しかも左手主導のグリップでは、クラブの重さに対応できていないということなんです。
成人の男性であれば、オーバーラッピングでも問題ないということではありません。たとえヨロヨロしなくとも、左手主導だと利き手が十分に使えないため、毎回正確に同じ軌道にクラブを上げているアマチュアは、実は、そう多くはないんです。長い棒を左手で操るのは、相当な鍛錬を要します。だから、トップをどこに上げようなどと、いつも複雑に考えてしまいます。
ケガがないのもメリット
左右分担型のテンフィンガーなら利き手が使えて安定するから、簡単です。両手合体型は、どうしても右手を強く働かせすぎてしまうと、100年前にプロゴルファーのハリー・バードンが苦肉の策で発明した特殊な握り方なんです。
右手を殺してしまうことによる左手親指つけ根の亜脱臼の危険性があることも、大きなデメリットです。指の痛みと闘いながらプレーしているゴルファーはかなり多いですよね。
時松隆光プロは、これまで一貫してテンフィンガーで、指が痛くなったことは一度もありません。指が痛まないことも他のプロから羨ましがられ、テンフィンガーを真似されたこともあったと聞きました。親指のケガで苦労された丸山茂樹プロもその一人でした。
私自身が20年前まで両手合体型のグリップでした。不自然で、難解で、危険であっても、構わずにやってきました。その結果、指や腰を故障して試合に出られなくなってしまったほどです。
プレーができずに絶望しかけていたとき、私の練習場へきた大学教授から、ぽつりと言われたんです。「人間の特性を殺してまで、なぜこんな矛盾したグリップで握らなければならないんですか」と。
その教授はお客さんで、私がゴルフを教えなければならない立場だったのに、逆に教えられてしまいました。ハッとさせられたんです。
ゴルフは自然のなかでのびのびとプレーするスポーツです。それなのに、クラブを握るという最初の作業から、とても複雑な指の使い方を覚えさせて、しかも不安定で故障につながる危険性すらあるグリップを、私は自分自身に、強いてしまっていたんだなと。
テンフィンガーに異なる説明などいりません。でも反対にオーバーラッピングで握らせようと思ったら、かなり細かい説明を要しますよね。左手の小指、中指で握り、親指をシャフトに乗せて、右手は左手を包み込んでかぶせ、左手主導で握ってみてください、と。
オーバーラッピングは制御が多すぎるんです。だからゴルフは難しい、複雑な技術がいるスポーツではないかと思わせてしまうんです。
グリップという技術ひとつで、ストレスを溜め込んでも楽しいはずがありません。両手をグーにして握るだけなら、簡単でしょう。
親指でクラブを受けない
もし「桜美式」のゴルフに制限があるとすれば、10本の指で握っても、両手の親指を伸ばしてシャフトに乗せてはいけないことくらいです。自然に握れば親指を伸ばそうなどとはしないもので、あくまでも両手合体型のグリップに慣らされてしまっている人向けの指導法です。
どうして親指をシャフトに乗せてはいけないか。たとえ、テンフィンガーでも左手の親指を伸ばし、そこを通じて右手と左手を連結したままでは、やはりそれも両手合体型なんです。クラブが重く感じられるし、テークバックが不安定になります。右手の親指も同じ、トップの位置で親指でクラブを支えようとし不安定の原因になります。また、伸ばすと親指つけ根への負担もそのまま。「トップでは親指でクラブを受ける」というよくある指導が危険です。親指だけでは受け止められないぶん、足や腰など体の別の部分を無理に使うので、さらなる故障にもつながります。
クラブをテークバックする際は、10本の指すべてを動員して安定させる。方向性や距離感などには右手の感性も十分に生かす。ゴルフは制限だらけで難しい両手合体型よりも、自由で簡単な左右分担型のほうが断然有利なんです。
「10本で握る テンフィンガースウィング」(ゴルフダイジェスト社)より