栃木県南端に本州最大の湿原、南北九キロの渡良瀬遊水地があり、南端に谷中湖があり、その下の河川敷に古河ゴルフリンクスがあります。
遊水地を滑り湖面を加速してくる風は半端ではなく、北大西洋を風が滑って吹きつけてくるスコットランドやアイルランドのリンクスと仕立ては同じ。風で乾いてグラウンドの硬さも同じ。と魅せられた面々がここをホームコースにして、十年近くになります。
みんなスコットランドで言うところのトロリー、手引きカートを引っ張ります。バッグを担いで回る者も数人います。その一人がコース設計家の迫田耕さんです。英国で二十年近くの歴の持ち主、担ぎの姿は絵になっています。

細めのバッグに必要な分だけクラブを入れてプレーする。それもまたゴルファーの“粋”だ
同じ担ぎでも、大学ゴルフ部のように裸のアイアンヘッドをジャカッジャカッと騒がしく鳴らすのとは大違い。細型バッグを腰に乗せ、両腕をまわして抱きます。リンクスをひとり静かに行く風情があり、品性があります。「別にかっこつけて担いでるわけじゃないですよ」と耕さんは言います。しかしカッコいい。で、もっとかっこいいのはそのあとの言い種です。
「次のショットのクラブ選択のためですよ。乗用カートがフェアウェイに乗り入れ可のコースでも、ローピングしてあったりして、ボールのところまで行けないでしょ。離れたところから見て次のクラブを選べますか。持って行った一本では合わないことがしばしばでしょ。手引きカートでさえそういうことになる」
手引きカートでも?
「うん、向こうではトロリー引いてラフに入ってはいけませんからね、手引きは面倒なんです。それに、花道やグリーンのすぐ脇まで引っ張って行くのは控えたいじゃないですか。でも、アプローチなんてボールのところまで行かなくちゃ、クラブは選べない。 ライの微妙なところを見てクラブを選びたい。担ぎならさ、ボールのあるところへ自在にバッグを持って行けるわけですよ」
ゲーム用に人工的に刈り込んであるフェアウェイと違って、イギリスやアイルランドではラフとは自然のままのだいじな植物の保護エリアです。
私は初めて訪ねた時、浅いラフだからと思ってトロリーを引いて入りかかり、向こうの友人にピシャッと警告されたことがあります。見れば天然のヘザーが這うように自生していました。ここに轍をつけることはもちろん厳禁。踏みつけることさえ極力少なくするのがエチケットだと知りました。
日本のラフは刈り込んで易しくしてありますが、しかしラフはラフ。草が立っていてこそラフなのだから、カートを入れては具合が悪い。
「それにあっちの内陸のコースは水はけが悪くて、フェアウェイがぬかるんで、轍がつきやすいところが多いんです。トロリーだとルートのとり方に悩んじゃう。担ぎなら気がラクです」
そして耕さんにはもう一言あります、「フェアウェイの芝にいちばん優しいのが担ぎなんです」と。おっしゃることもかっこいい。
「ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より
写真/阿部了