「手のひら」の力は強い! だからボールを遠くへ飛ばせる
クラブは指で握る、それが常識とされてきました。傘を持つように指で握りましょう、などです。でも、「桜美式」では、指で握りなさい、とは教えません。なぜなら、指で握るところから、ゴルフの悩みや苦しみが始まることが、はっきりしているからです。
「桜美式」のテンフィンガーは、指ではなく、手のひらで握ります。
指は、細かな作業が得意。針仕事、絵を描く、箸を持つ、すべて指の仕事です。一方、手のひらは、細かな作業が苦手。針も筆も箸も、手のひらで持ったのでは上手く操れませんよね。確かに、細かな作業は手のひらではなく、指です。
しかし手のひらは、力を必要とする作業が得意なんです。重量挙げのバーベルを持ち上げるのも、重たいドアを押し開けるのも手のひらです。プロレスラーが敵に張り手を食らわすときも、やはり手のひらを使いますよね。
違いはまだあります。指は小さい範囲を素速く動かすのが得意です。そろばんを弾くのも、お札を数えるのも、手のひらでは遅いでしょう?
でも手のひらは、大きい範囲でゆっくり動かす動作が得意です。餅つきや樹木の伐採などを想像するとわかりやすい。それに、指はプレッシャーに弱く、緊張してしまうと文字も書けなくなります。
手のひらは、たとえ震えてしまったとしても、物を落とさずに持っていられる強さもあります。
整理してみると、指は、細かく、小さく、素速い動きが得意で、プレッシャーに弱い。手のひらは、力強く、大きく、ゆったりした動きが得意で、プレッシャーにも強い。こうして並べてみるだけで、どちらがゴルフクラブを握るのに適しているか、もうわかりますよね。
なぜ、フィンガーグリップがゴルフでは推奨されてきたか?
主な理由はふたつあると思います。1つは、ゴルフクラブはシャフトが細いという物理的なこと。野球のバットより、テニスのラケットより、ゴルフクラブは細いですよね。バットもラケットも手のひらで握りますが、ゴルフクラブは細いがゆえに、指でも握れてしまうじゃないですか。シャフトは傘の持ち手ぐらいの、ちょうど指で握れる細さです。
ですが、ゴルフクラブは傘とはまったく違います。いくら指で握れる細さだからといって、実際に球を打つと、1トンにも及ぶ衝撃がグリップにかかると言われています。それを指で、しかもオーバーラッピングのように一部の指にわざと力が入らないような状態にして球を打つなんて、それはとても危険な行為です。
指で握るグリップはプロたちが球筋を精妙にコントロールするためのもの
パームグリップではなくフィンガーグリップが主流になったもうひとつの理由は、プロが指で握ってきたという歴史的背景です。強い力を出しすぎたくないプロが、クラブの操作性のことを考え、球筋をコントロールしようとしたので、オーバーラッピンググリップとともに普及しました。そこでフィンガーグリップが、アマチュアにも広まっていったんです。
自分の手のひらを見てください。なぜ指は、「1対4」なのでしょう?
親指が1本と、その他の指が4本、手のひらを介して「1対4」に分かれています。それは、まさしく手のひらで物を握るため。猿は木の上が生活の場ですから、枝を握る必要があります。木の実を剥くだけなら指だけあればいいんですが、「1対4」の親指と人指し指の間、すなわち、手のひらがあることで、「つまむ」だけではなく、「握る」ことが可能になっています。
その「1対4」で、鉄棒にぶら下がれるわけです。ボクシングのグローブを見てください。「1対4」に分かれていて、親指と人指し指の間の手のひらで拳を握りこむことで、強いパンチが放てるわけです。
手のひらは肩、足裏とも連動
指で握ると、体のほかの部分と上手く連動できません。たとえば手のひらの付け根は、腕を介して肩とつながっています。指で握ると肩との連動ができない。また、手のひらは、足の裏ともつながっています。これが連動できてこそ、地面のパワーを得られるんです。
左手だけではなく、右手も指ではなく手のひらで握ります。もちろんオーバーラッピングやインターロッキングのように、指をからめたり重ねたりする両手合体型ではダメです。あくまでも野球のバットのように左右分担型です。
それだけでクラブが安定し、細かい操作を気にせずに思い切って振れます。
もともとクラブは、操作なんて必要ないようにできているシンプルな道具です。逆に、指で操作してしまうから、いろんなミスが際限なく出てきてしまう。「桜美式」のジュニアたちは、ごく自然に手のひらで握って、誰も悩まず、苦しまず、まるで猿が木にぶら下がるかの如く、悠々と球を飛ばしています。
みなさんも、他人からの教えではなく、自分自身の本能をもっと信用して、手のひらでゴルフを楽しんでください。
「10本で握る テンフィンガースウィング」(ゴルフダイジェスト社)より *一部改変