地面反力によって飛距離を伸ばしていたデシャンボー
アイアンの長さを統一したりコース内にコンパスを持ち込んだりと、物理法則を活用することでも知られている超理論派PGAツアープレーヤー、ブライソン・デシャンボー。
デシャンボーは10月半ばにタイガー・ウッズの前コーチのクリス・コモと一緒にテキサス女子大学のヤン・フー・クォン教授のもとを訪れ自身のスウィング計測を行いました。デシャンボーは2014年にも同様のスウィング計測を受け、スウィングプレーンや地面反力の使い方についてクォン教授からアドバイスを受けていました。
2014年のデシャンボーのスウィング計測の模様はこちら。
今回は4年前と比べスウィングデータがどのように向上しているのかを確かめに来たようです。
「デシャンボーの新旧のスウィングを比較すると大きく変わったところはスタンスとダウンスウィングの左サイドの使い方です」
クォン教授はデシャンボーのスウィングデータを細かく分析し、特にデシャンボーの下半身の使い方に注目しました。
クォン教授が学術用に開発した独自スイング解析ソフト「クォン3D」を用いて高性能ハイスピードカメラ、フォースプレートによって計測されたデシャンボーのスウィングデータを見ましたが、明らかにダウンスウィングからインパクトにかけての地面反力の数値が伸びていました。これは下半身を積極的に使うためにワイドスタンスにし、ダウンスウィングで左サイドを踏み込む動きを積極的に使ったことで縦の地面反力が向上していました。
地面反力の数値が伸びたことで、デシャンボーのドライビングディスタンスは2016年の294.6Yから今シーズン312.8Yとなり、20ヤード近く平均飛距離が伸びています。
デシャンボーのスウィングは“ゴルフィングマシーン”というスウィング理論に基づいて設計されています。再現性重視で垂直軸を中心とした回転運動によって出力するスウィング理論のため、クォン教授は前回の2014年の計測では縦の反力が少ないことを指摘していました。そしてクォン教授は再現性の高い動きを維持しつつ、さらに飛距離が出る力の出し方をアドバイスしたと言います。
「テークバックで右サイドに体重をかけて、切り返し以降で左足を踏み込むようにすると地面の反動の力(地面反力)を使う事ができて回転スピードが上がります。そのための骨盤の使い方をいくつか試して、デシャンボーもそれを気に入ったようでした。」
結局デシャンボーはすぐには教授がアドバイスした動きを取り入れませんでしたが、4年の歳月の中で自身のスウィングにクォン教授から得た地面反力の知識を取り入れて飛距離アップを行うことができたのです。
ツアー選手もバイオメカニクスを理解すべき時代
デシャンボーはセオリーから外れた動きや取り組みで「奇人」や「変人」と呼ばれることもあります。しかし、それは他のゴルファーの視点では見えないものを見ているからにすぎません。
多くのゴルファーは自身の経験から得た「感覚」やスウィングプレーンや体の動きなどの「目に見える現象」などでゴルフスウィングを語りますが、デシャンボーはバイオメカニクスや物理といった「学問」の視点からゴルフスウィングを見ています。
デシャンボーは目に見えない力の向きや計測されたデータを基に、学術的に証明された「事実」に沿ってスウィングを構築しているのです。
既にPGAツアーでは「感覚」や「目に見える現象」に頼るのではなく、バイオメカニクスや物理を用いたスウィング構築を行っている選手が多くいます。タイガー・ウッズのようにクリス・コモのようなコーチに教えを受ける場合もあれば、デシャンボーのように選手自身が学ぶケースも珍しくはありません。
実際にクォン教授の研究室にはマット・クーチャーなどの有名なPGAツアー選手・LPGAツアー選手、そして将来有望なジュニアが頻繁にスウィング計測に訪れ、「学術的な視点」を手に入れ自身のプレーに活かしています。
世界に目を向けるとPGAツアーだけではなく、アジアンツアー選手なども独自にバイオメカニクスを学んでゴルフスウィングに活かしています。日本でもゴルフスウィングを学問として学び、スウィング構築の土台となる知識を身に付ける必要性が高まってくるでしょう。