開幕戦の重永亜斗夢に始まり、数多くの初優勝者が生まれた2018年の男子ツアー。急激に世代交代が進んでいるように感じられるが、その背景には何があるのか。田中秀道ら、ツアーの最前線を知る関係者に取材した。

トラックマンでクラブを選ぶ「飛んで曲がらない」プロが増えてきた

「世代交代の時期に入った、というのは簡単なんですが、今平周吾選手に代表される飛距離が出て曲がらない選手たちが増えてきていることが大きいと思います」

そう語るのはプロゴルファーの田中秀道。

「稲森佑貴選手も曲がらないだけでなく飛距離も出ていますし、とにかくレベルが上がってきた、上(上位)で戦える人数が増えたということでしょう。ベテランの選手のレベルが落ちてきたわけではなく、層が厚くなってきたということがまず第一なんだと思います」(田中)

ツアー全体のレベルがボトムアップされたことでより競争が激化。その中で、飛んで曲がらない技術を持った若手ゴルファーが、激しい生存競争を生き延び、勝利を掴んだという分析だ。

画像: ツアー全体のレベルが上がっていると田中秀道は指摘する

ツアー全体のレベルが上がっていると田中秀道は指摘する

テーラーメイドのツアー担当の宮野敏一は、「小平智プロ、松山英樹プロ、宮里優作プロ、池田勇太プロといったトップ選手が海外ツアーを中心にしたことで、若手にとっては『お邪魔します』という感じから、“自分の職場”という感じになっていたように思います」と、若手の躍進の理由を語る。

トップ選手が不在となれば、その分だけ自分たちが上位に食い込める確率は高まる。若いプロたちにとっては“勝ちにいける”状況が生まれたことで、目の色が変わったことも大きいようだ。そして、そんな若手たちは、クラブに対する意識も前の世代とは異なるという。

「若手選手のクラブ選びはトラックマン(弾道計測器)ありき。トラックマンに感覚を合わせるから、中空構造など打感に優れないモデルでもこだわりなく使います。“アマチュアも使えるプロモデル”を使うプロは珍しくありませんが、最近は“プロも使えるアマチュアモデル”を使うプロが増えてきました」

画像: 若手はクラブ選びも変化しているとテーラーメイドのツアー担当・宮野敏一は言う

若手はクラブ選びも変化しているとテーラーメイドのツアー担当・宮野敏一は言う

一般に、プロのクラブは打感が良く、ボールの操作性に優れている場合が多い。それに対してアマチュアモデルはミスヒットに対する強さが売りの場合が多い。そんなクラブをプロが使えば当然曲がりが少なくなるから、思い切り振れるようになる。田中秀道が言う「飛んで曲がらないプロの増加」の背景には、「トラックマンでいい数値が出れば、それがベスト」という、若い世代ならではのクラブ選びも関与しているようだ。

そのことで、従来とは異なるタイプの選手が上位にくるケースも増えている。

「額賀辰徳選手もそうですが、従来の日本のツアーのコースセッティングは270〜280ヤードの飛距離で曲がらないのが一番大事という中で、それを超えるような飛距離の選手も多くなってきました。小技ではなく大技、破壊力でアドバンテージ取っていく選手が出てきたのは、世界に向けていいことだと思います」(田中)

そのような飛距離でアドバンテージをとれる選手が目立つ背景にあるものはなにか。活躍する若手に言えることとしてフィジカル面を挙げるのはプロコーチの阿賀徹だ。

画像: 秋吉翔太、出水田大二郎ら、フィジカルに秀でた選手の活躍も目立った

秋吉翔太、出水田大二郎ら、フィジカルに秀でた選手の活躍も目立った

「アマチュア時代や幼少期にゴルフがすごい上手かったといったこともありますが、それ以上にレギュラーツアーでの戦いになると、秋吉翔太も出水田大二郎もそうですが、体のサイズとか当たりの厚さのほうが大きいアドバンテージになるように思います。大事なのは、もともと持っている体の大きさとトレーニングのふたつ。それに加えて状況対応力に優れた若い選手が生き残っていくという印象です」

フィジカルに優れ、クラブに対するこだわりを持たず、飛んで曲がらない若手……どうやらこれが、今の時代に活躍できる選手像のようだ。そんな状況を歓迎しつつも、田中秀道は若手には戦うべき“壁”が必要だという。

「(今後)いい意味での競争がより激しくなると思います。中堅の選手はよりエンジンがかかるでしょうし、中堅がより壁にならないと、若手の頑張りの意味がなくなってしまいます。とくに、石川遼選手には年齢的にはまだまだ若手ですが、(未勝利や、デビュー間もない)若手にとっての“牙城”になってもらいたいと思います」

圧倒的に強い選手が中心にいて、そこに新たなチャレンジャーが挑んでいく。それがもっとも面白い構図だ。2019年以降の男子ツアーは、そうなる可能性を大いに秘めている。

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