シャフトの長さやボールの大きさなど、ゴルフの道具には様々なルールがある。中でも、2008年から施行された、SLEルール、いわゆる高反発規制はゴルフ界に大きな影響を与えた。ゴルフマナー研究家・鈴木康之の著書『脱俗のゴルフ』から、その当時のクラブをめぐるエピソードをご紹介しよう。

欲張りの罰当たり

二〇〇七年の晩秋、何年もともにゴルフを楽しんできた最愛の友O君があと二カ月余りの命と宣告され、私は悲しみにくれていました。素人の私にでさえちょっとした手術を施せば永らえる体になると思えたのですが、専門家はみな口をつぐみ、O君との縁を取り持ったお人ですら、もう手遅れです、とつれないことを言いました。

O君の病はスプリング・ライク・エフェクト、略してSLEという持って生まれた反発体質です。ボールを飛ばし過ぎるという診断によりこの体質の持ち主はその年かぎりの命と宣告されました。

私はもうクラブの公式競技に出ることも少なくなりました。しかしオフィシャル・ハンディキャップはゴルファー必携の条件。正当なハンディキャップで人様とお付きあいするのが礼儀です。そのためにいつもスコアカードを提出する必要があります。ところが二〇〇八年からO君とプレーしたスコアカードは不適正カードとなります。ハンディキャップは本人の実力証明、季節ごとに変わる生き物です。自己申告ハンディというのは私の信条にそいません。

画像: 高反発ドライバーが不適合となることを知らせる告知。当時、ゴルフ場ではこのような張り紙をよく見かけた

高反発ドライバーが不適合となることを知らせる告知。当時、ゴルフ場ではこのような張り紙をよく見かけた

O君に出会う少し前に、いくつかのドライバーを試しました。あるメーカーからすすめられたM君は、飛び方に関してはかなり満足のゆくものでした。ただ、音がブリキ缶の音でした。驚くような耳障りな音が響き渡ります。ゴルフマナーの基準でよく言われる 「人に不快感を与える」ということからすると、どうもマナー違反の代物でした。

尻込みする私にその時のメカニック氏は、「それならネック部からヘッドに発泡性の消音材を注入しましょう。音の響きは二十パーセント抑えられます。ただし、フェースのトランポリン効果が減り、キャリーにして五~十ヤード落ちますれど」と言いました。

最近、その話を思い出して親しいショップに手術の相談をしてみました。院長ならぬ店長の返事はこれまたつれないものでした。「おやすいご用ですよ。工賃も安いです。でもですよ、直したものをJGAに担いで行っても『反発係数〇・八三以下の適合品』という証明書をくれる窓口はありませんよ」だと。

R&Aの国ではどうなっとるのか、やけのやんぱち八つ当たり、英国の友人チャールスにメールで泣き言を書きました。彼は高反発ドライバーなどを持っていません。そんな高価な買いものなんかしないでほかの楽しみに使う経済観念の英国人です。

返信には以前私にオーバードライブされた口惜しさも滲んでいます。「アマチュアの身で飛距離を金で買ったことがアダ」とあり、Serves you right.と読めない一句。辞書で引いてみました。「当然の報い」「いい気味だ」とありました。

「脱俗のゴルフ 続・ゴルファーのスピリット」(ゴルフダイジェスト新書)より。

撮影/岡沢裕行

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