今週開催されるタイガー・ウッズがホストする大会「ヒーローワールドチャレンジ」。昨年の大会では、9カ月ぶりの実戦復帰をしたタイガー・ウッズが9位でホールアウトし、その後の復活へのはずみとなった。その復活の土台を作ったのは、実戦復帰前にコーチを務めていたクリス・コモだ。稀代の名選手をいかにして復活させたのか。ゴルフスウィングコンサルタントの吉田洋一郎が、コモ本人に話を聞いた。

無名のコーチがタイガーの専属に

現在41歳のクリス・コモがタイガーのコーチになったのは4年前。30代の若手でしかも実績もほとんどない無名コーチと契約をしたことは、周囲から驚きをもって迎えられました。彼は経験が少ないとみられがちですが、19歳のころからコーチとして活動しており20年近くのキャリアを持っています。

「私は何人かの有名なコーチのもとでスウィングや指導法を学びました。そして古今東西問わずにコーチングやスウィング理論の本を読んだり、気になれば実際に会いに行き話を聞いてきました」(コモ、以下同)

画像: 無名だったクリス・モコがタイガーのコーチとなった

無名だったクリス・モコがタイガーのコーチとなった

そんなふうにして多くの理論を吸収していったコモは、「なぜスウィングに対してこんなにも異なった理論があるのか」という点に強く興味を持ったそうです。そして自らコーチングをする中で、どれかが間違っているのではなく人によって正解が異なるという事に気づいたのです。

「スウィングを変更するだけが選手のパフォーマンスを上げる方法ではありません。練習方法や休養スケジュールで成績が良い方向に向かうこともあります。大事なのは、何が問題かをきちんと把握することです」

このように一つの理論に囚われず幅広い知識の中からその選手に合った改善案を提示するコモのスタイルが、いままでの「ティーチング」という枠を超え「コンサルティング」という新たな分野を生み出したのです。このスイングコンサルティングは満身創痍の中で復活を目指すタイガーにとてもマッチしたものだったのです。

タイガーはこれまでハンク・ヘイニーやショーン・フォーリーといった、完成系のモデルスウィングに体の動きを合わせていくタイプのコーチと一緒にスウィングを作ってきました。しかし復活前のタイガーは度重なるケガでまともに歩行ができないほどフィジカルに問題を抱え、長期にわたり実戦を離れていたことで彼の身体に何が起きるか未知の状態だったと言えます。そこでコモはタイガーが復帰後も長くキャリアが続けられるように、身体に負担のないスウィングを採用したのです。

代名詞だったハンドファーストで球をつぶしてコントロールする方法から、クラブの遠心力に任せて手首の角度をリリースするようになりました。筋力を使ってボールを押さえつける必要がなくなったので、手や上半身への負担が軽減されています。

また下半身の使い方も左サイドに軸を置くスウィングから、両足に均等にかけダウンスウィングでは左足で地面を押して上半身の回転を速くする「地面反力」を使った動かし方に変更しました。これにより腰や左ひざへの負担を減らし、以前よりも速いヘッドスピード(2013年:52.9m/s→2018年:57.7m/s)を出すことができるようになったのです。

バイオメカニクス(生体力学)の伝搬

タイガーの例からもわかるように、プレーヤーに合った動きを取り入れるのがコモ。彼は今、人体の動きと物理学を応用したバイオメカニクスを用いて、スウィングをよりよいものに変更するティーチングを行っています。

「バイオメカニクスを学ぶことで、物理的根拠に基づいた目標設定ができるようになりました。専門の計測機器を使えば、彼らのデータを用いて素早く問題点を導き出すこともできます」

コモはテキサス女子大で大学院に通いながらヤン・フー・クォン教授にバイオメカニクスの授業を受け、100名以上のPGAツアープレーヤーのデータ収集と分析を行ったことが大きな転機になったと語りました。

画像: コモはヤン・フー・クォン教授にバイオメカニクスを学び、100名以上のPGAツアープレーヤーのデータ収集と分析を行ったことが大きな転機になったという

コモはヤン・フー・クォン教授にバイオメカニクスを学び、100名以上のPGAツアープレーヤーのデータ収集と分析を行ったことが大きな転機になったという

「Dr.クォンはスウィングはこうあるべきという私の固定観念を変えるとともに、私がレッスン哲学を構築する上でもっとも大きな影響を与えてくれました。彼はゴルフレッスン史上もっとも評価が高い研究者のひとりで、彼が提唱するグラウンド・リアクション・フォース(地面反力)の研究とスウィングプレーン理論は世界中のゴルフインストラクターにレッスンの理論的枠組みの変化(パラダイムシフト)をもたらしたのです」

欧米ではバイオメカニクスを用いたティーチングはここ5年で当たり前になりました。しかし、このようなスウィングに対する科学的なアプローチはまだまだ発展途上です。

「現在多くのインストラクターがバイオメカニクスを学び、バイオメカニクスの根底にある原理について学ぶ努力をしています。Dr.クォンの物理学に対する深い理解と彼が編み出した分析ツール、そして継続的に積み上げてきた研究は、高いレベルのインストラクターにとっても学ぶべき価値があります」

今後それぞれに最適なティーチングが提供されれば、飛距離が伸びるだけではなく故障が今以上に減り選手のキャリアも長いものになっていくでしょう。

アマチュアの皆さんもバイオメカニクスの基礎を学ぶことで、地面反力を用いて体に負担をかけずに飛距離を伸ばすことができるようになると思います。試してみようかなと思った人は、私が地面反力の研究をするヤン・フー・クォン教授とその内容をまとめた書籍『飛ばしたいならバイオメカ 驚異の反力打法』(ゴルフダイジェスト社・11月26日発売)をチェックしてみてください。

This article is a sponsored article by
''.