エリートゴルファーには誠実さを求め、一般ゴルファーにはやさしさを与える
今回のルール変更は、JGA(日本ゴルフ協会)によれば「より分かりやすく、簡単に、不要な罰をなくし、プレーのペースの役に立つ」ように見直されたという。
距離計測機の使用が認められたり、ボールの捜索時間が3分になったり、ドロップがひざの高さからになったり、2度打ちに罰がなくなったり、バンカーで2ペナを加えたらバンカー外にドロップできるようになったり、ティインググラウンドがティイングエリアになるなど名称が変わったり……と変更点を挙げるだけでキリがないほど大きく変わる。
このルール改正に対し、クラブメーカーでありゴルフ場も経営するマグレガーゴルフジャパンの社員で関東地区のトップアマとしても知られる松下健は、クラブメーカーであり、ゴルフ場のスタッフであり、プレーヤーでもあるという立場から、こう分析する。
「新ルールが発表されて以来、自分なりにルールブックや講習会の資料を読み込みました。そして思ったのは、今回のルールは、一般ゴルファーにはよりカンタンに、プレーがしやすくなるように変更された一方、競技ゴルファーにはよりプレーヤーの誠実さに頼るゴルフの原点回帰的な部分が見られるということです」(松下、以下同)
ただでさえゴルフはプレーに時間がかかる。その上ルールが複雑なままでは新規参入のハードルが高くなる。ルールを簡略化することで、参入障壁を下げようというわけだ。
「たとえば、プライベートのラウンドで、ティショットのボールが見つからないとき。本来はティグラウンドに戻って打ち直す必要がありますが、わざわざ戻らず『そのあたりからやりなよ』ということは多くあると思います。今回のルールでは、そんな一般ゴルファーの“日常風景”をルールが追認した形になります」
ちなみに、これは「そのようにローカルルールで認めてもよい」ということがルールで認められたということ。つまり、ゴルフ場Aではボールが見つからなかったら、戻って打ち直さずに4打目として前からプレーしてもいいが、ゴルフ場Bでは従来通りティショットを打ち直す必要がある、ということだ。
一方で、エリート競技に関してはこのローカルルールは適用が推薦されない。また、競技においては、救済を受けるときにマーカーに告げる必要がなくなる。プロの試合でいえば、テレビ視聴者が後からプレーヤーの違反を指摘しても無効となることとなった。いずれも、プレーヤー本人の誠実さを求める変更だ。当然、プレーヤー一人一人に新ルールへの深い理解も求められるだろう。
「シリアスゴルファーには誠実さとルールへの理解を求める一方、ティショットがボールをカスって、ティからコロンと落ちてしまった場合でも、ティイングエリア内ならティアップが許されたり、バンカーから2ペナを支払えばバンカー外にドロップできるなど、初心者にはかなりやさしくなっているんです。いわば意図的なダブルスタンダード化。その先には、もしかしたら用具のダブルスタンダードもあり得るのでは……と思うんです」
ご存知の方も多いだろうが、現在ゴルフクラブ、そしてゴルフボールには多くの規制がかけられている。なかでもドライバーのいわゆる「高反発規制」は有名で、プロたちが規制をものともせずに年々飛距離を伸ばしている一方、アマチュアゴルファー、とくにヘッドスピードの低いシニア層などにはルール不適合の高反発ドライバーが人気を集めているといった現状もある。
300ヤードを楽々飛ばすプロと200ヤード飛ばないアマチュアを同じルールで縛るのはおかしいという意見は根強くあり、レジェンドプレーヤーであるゲーリー・プレーヤーも、アマチュアは飛ぶ用具でプレーすることを認めるべきだという趣旨の発言をしていたりもする。
「クラブメーカーとしては、もしアマチュアとプロで用具の規制が二分化したら、できることはすごくたくさんあります。飛距離やスピンを究極まで追求したクラブを作ることができますし、マーケットの活性化にもつながると思います。野球でプロは木製バット、高校生は金属バットを使いますが、それと同様の用具に関するダブルスタンダードへの布石と、今回のルール変更を読み取れないこともないと思うんです」
飛ぶクラブはゴルフ寿命を延ばし、やさしくプレーできれば参入障壁が下がってゴルフ人口増にもつながる。もちろん、これは現段階でなんのアナウンスもない純然たる“予想”に過ぎない。しかしもしそうなったら……それによって恩恵を受けるゴルファーは、決して少なくないはずだ。