とにかく利き手を活かす
グリップは両方一緒にではなく、右側(右利き)だけを優位に生かすからこそ、細かな作業から力作業まで、なんでも上手にこなすことができます。
強すぎる右手を制限し、左手を重視すれば、結局は右と左、両手をそろえて左右同じ動作をしようとしているということ。両手合体型グリップは、まさに人間が苦手な両手打ちをするためのグリップだったんです。
細かい作業も、力作業も苦手で、同じことを同じように繰り返す再現性が低いのが、左手です。なのに、それらを必要とするゴルフにおいて、これまでは左手が主役になってきました。ここでひとつ、ゴルフの常識について考えてみましょう。みなさんクラブを振るとき、左手にグローブを着けています。これは左手主導を意識させるためでもあります。
私は、右手のみにグローブを着けるべきだと思っています。グローブを着けない人や、両手に着けるというゴルファーは目にしますが、右手のみに着ける、というのは珍しいとは思います。
ほとんど何もすることがない左手を、滑らないようにとか、傷つかないようにとか、そんな気配りをしてどうするんですか。気配りするべきは、「右手」です。
もちろんクラブ自体に重量があるから左手は添えているだけで十分。添えているだけの左手を意識することなんてまるでありません。
右手は8、左手は2の意識
「桜美式」での右手と左手の意識の配分を対比しましょう。ほんとうは、そんなふうに数字で決めたくないのですが、意識で言うと右意識、左意識がそれぞれ8:2くらいでしょうか。
両手をそろえて左右同じ動作をすることが苦手という人間の鉄則がある。だからどうしても自然と右手が利きすぎてしまう。それを矯正しようと左手を重視してきたのがこれまでの発想。しかしそれだと元の木阿弥で、やはり苦手であるはずの、両手で左右同じ動作をすることに戻ってしまう。
ならば「桜美式」では、左手の意識は思い切って2にしてしまい、細かな作業、力作業、再現性、すべてにおいて優位性がある右手の手のひらだけを意識してしまえばどうかと、発想を逆転させてみたわけです。つまり、右手が8、左手が2。
グローブだけではない。もうひとつ、用具の常識を覆しましょう。クラブのグリップは、グリップエンド側が太く、ヘッドに近づくほうが細くなっていますよね。これも、右手を制限、左手を重視するための、両手合体型用のグリップなんです。
右手を握る部分のほうが細くて力が入りにくく、左手を握る部分のほうが太くて力が入りやすい構造になっています。私はメーカーに依頼して、端から端まで太さが変わらない、ストレートグリップを制作してもらい、今はそれを生徒に推奨しています。なぜなら、右手だけを意識させたいのに、その右手にとって不利な状況を、道具で作ってしまいたくないからです。
そのストレートグリップがない読者のみなさんは、次の方法で右手の感覚を呼び覚ましてみてください。従来のグリップの、右手が当たる部分に、少し濡れたオシボリを巻き付ける。そして、左右分担型テンフィンガーで握ってスウィングする。左手を重視していたこれまでにない、自然で簡単な感覚、味わったことのない快感を実感されると思います。ぜひやってみてください。
どこかに力を入れなくとも、キュッと右手が締まる感じで、クラブをコントロールできると思います。
テンフィンガーでグリップした6歳がスコア90台を出した!
生徒に右手グローブやストレートグリップを推奨したところ、驚くべき結果が出たんです。ジュニア用のゴルフクラブさえ重たく感じる、就学前の6歳の子が、お兄ちゃんがやっているから僕もゴルフがしたいと言い始めた。従来の両手合体型を教えるなら、こんな幼い子はクラブを振れませんから、おもちゃで遊ばせたり、もう少し大きくなってから本格的にやらせようとしたりしますよね。
ところがテンフィンガーで、右手のひらと利き手リードを意識させて、いきなり本格的に球を打たせてみました。その結果、なんと6歳にして90台で回れるようになってしまったんです。右手だけを意識して、6歳が90台! それはビックリしました。
右手だけを意識させると、いつまででも楽しそうに球を打っていられるんです。
「10本で握る テンフィンガースウィング」(ゴルフダイジェスト社)より
撮影/浅田紀元