いまだに納得! グリップを握る強さは包丁でまな板の大根を切る「トントントン」
小松原三夫プロの教え方は、生活密着型だ。日常の生活で使っている上体、腕、手、足の動きなどをうまくスウィングに採り入れる指導法である。ふだん使っている身近な動きだけに、頭を使うまでもなく、直接、筋肉に伝わっていく感じだ。
小松原プロはレッスンひと筋、さすがに生徒のスウィングの欠点を見つけるのが早かった。そして「こんな体操をやってみてください」と、まず生活に密着した体操(ドリル)を勧める。この体操をやるとやらないとでは大違い。十分に体操をしてから、スウィングの矯正に入ると、あっさりと筋肉が受け入れてくれる感じがした。
私は、グリップの強さを小松原プロに尋ねたことがあった。グリップを握る強さについては、いろいろと意見の分かれるところで、あるプロは軽く柔らかく握るというし、またあるプロは、指の先が白くなるほど強く握りしめるといっている。
グリップは、ボールを打つクラブと体の唯一の接点である。それだけにどれほどの力で握ったらいいか、ゴルフを始めたころから気になっていたのである。
小松原プロは、私の問いにこう答えた。
「それは、まな板の上の大根を刻むときの、包丁の柄を握る強さですよ」
なるほど、包丁はあまり強く握りしめたらリズミカルにトントントンと早く大根を刻むことはできない。反対にゆるく持ち過ぎたら、いくらそれほど硬くない大根でも、包丁がまな板をリズムよく叩いてはくれないはずだ。
それからというもの、私は練習場で1球ごとに、大根を刻む場面の「トントントン」という音を頭に思い浮かべてからグリップし、構えに入るようにした。
その後、グリップを握る強さについては、手のひらの中の小鳥を逃がさない程度、友人と親愛の情をこめて握手する強さ、あるいは歯磨きのチューブの中身を押し出さないくらいの強さなど、いろいろな表現があることを知った。しかし、今でも私のグリップを握る強さは、大根を刻む「トントントン」の強さである。
「ゴルフ、“死ぬまで”上達するヒント」(ゴルフダイジェスト新書)より