よく入る、釣り鐘式の「ライジングパット」
私は、振り子のように打たされてきた生徒がいたら、振り子は再現性が悪いから難しく、とても長時間練習しなければなりませんよ、と言ってあげます。
時計の振り子は正確だから良さそうに思いますが、それは機械が動かしているのであって、人間には毎回同じように動かすなんて不可能です。振り子パッティングの問題点は、動く人間と、動かされるパターの接点が、両手を合体させた1点のみで、パターを吊るしている腕も、2本を固めて1本にしていること。1本化した腕でパターを操ることがどれだけ難しいか。
たとえば、お寺の釣り鐘を鳴らす「撞木(しゅもく)」を考えてもらうだけでわかります。坊さんが定時になるとゴーンと釣り鐘を鳴らす、あの木のことです。除夜の鐘を鳴らした経験のある方も多いと思いますが、あの撞木、1本の縄ではなく、2本の縄で吊られています。撞木を毎回決まってあの位置に撞けるのは、2本の縄で吊るしているからこそ。パターのヘッドも毎回決まった位置に打ち出す再現性が重要であるという意味においては、パッティングもお寺の釣り鐘と同じです。
フェースがいつまでも球を向く
両手合体型グリップで、腕を1本化した振り子の打ち方よりも、左右分担型のグリップで、2本の腕で操る釣り鐘パッティングのほうが、再現性が高いのです。
2本の縄で支えて水平に動かせるからこそ、毎回同じ位置に打ち出せる再現性の高い動きが可能になった。パターも同じで、2本の腕で支えて、シャフトを立てたまま動かせれば、ヘッドを地面と水平に走らせることができる。ヘッドのフェース面の向きを考えてもらえばわかりやすい。振り子だとシャフトが斜めに傾くので、同時にフェースも前後左右に傾いてしまうのに、釣り鐘だとフェースはいつまでも球の方向を向いたまま。
しかも振り子パッティングは、実は球の転がりがとても悪い打ち方でもあるんです。ロングパットでよく見る光景ですが、振り子でヘッドを振り下ろしてインパクトを迎えたその出だしの1メートルほど、球が回転しないまま芝の上をすっ飛んでしまって、その結果まったく距離感が合わないことがあるでしょう?
あれは、振り子のテークバックでヘッドを斜め上へ振り上げ、ダウンで斜め下へと振り下ろして打ちにいくことで発生する現象です。インパクトでヘッドが急な入射角で球に当たれば、当然ながら物理的法則で球は斜め上へと飛び出そうとします。あの無回転現象を、「パッティングの大事故」と私は呼んでいます。
転がらずに直進している球というのは、ほとんど宙に浮いてしまっているわけですから、どこまで飛んでいってしまうかわかりません。球を自分でコントロールできなくなった状態。カップを大きくオーバーしたり、ショートしたりして、3パット、4パットという大事故へとつながってしまいかねませんよね。
釣り鐘パッティングで、ヘッドを真っすぐ引いて、真っすぐ出していくのはもちろんですが、さらに、インパクト以降でヘッドを自然と斜め上へと抜いてあげることも大切です。
振り子パッティングのヘッドの動きは、「斜め上(テークバック)→斜め下(ダウン)→斜め上(フォロー)」でした。対する釣り鐘パッティングのヘッドは、「真っすぐ→真っすぐ→斜め上」。
手で球を転がすことを考えてみてください。手のひら側を上に向けて球を持ち、手を真っすぐ後ろに引き、真っすぐ前に出し、投げたあとは自然と手が斜め上に抜かれますよね。これ、パターのヘッドの動きと一緒です。大事故を避け、しっかり狙いどおりに球を転がしたいなら、ヘッドの動きは、「真っすぐ→真っすぐ→斜め上」が正解。このヘッドの動きを、「ライジングパット」と私は名付けました。ライジングとは、「昇る」という意味です。
球はカップに「沈める」もの。でもヘッドは上から下へと沈めずに昇る動きをするのがいい。だから、ライジング!
もちろん、グリップは左右分担型テンフィンガー、「半身の構え」でアドレスし、右手を積極的に使って「陽が昇る」ようにヘッドを動かし転がす要領です。
「10本で握る テンフィンガースウィング」(ゴルフダイジェスト社)より
撮影/姉崎正