バリアフリーのショートコースなど新たな試みが始まっている
「何万円もするゴルフギアを購入しなければならない」「ツアープロのような服装をしなければならない」「礼儀作法がわかりにくい」「行くのに時間がかかる」……これは、日本の若者がゴルフをしない理由ではなく、スコットランドの若者がゴルフをしない理由。つまり、世界中のゴルフ業界が、似たような課題を抱えていることがわかる。
「高い・遠い・時間がかかる」がゴルフの三大参入障壁であることは間違いがなく、それを乗り越えるためのひとつの解として、USGA主催のシンポジウムでは、ショートコースについての講演がいくつか行われた。
たとえば、コース設計家のベンジャミン・ウォーレン氏は、自身がコンサルとして関わった事例として、バリアフリーのゴルフ場を紹介。
「ミネソタ州の『チャスカ・パー30』のコンセプトはバリアフリーなゴルフ場の実現です。プロでも初心者でも、車椅子ゴルファーでも楽しめるゴルフ場。パラリンピックの会場としても使えるバリアフリーショートコースは、都市の中に実現するかもしれないし、どの土地にもあるべきです」(ウォーレン)
ウォーレン氏によれば、そのコースは「初心者でも、プロゴルファーでも、車椅子のゴルファーでも、楽しめるコース」なのだという。また、バリアフリーではないが、アメリカにはリノベーションを行い、収益を上げている都市部のショートコースが複数存在しているという。
ゴルフ協会が旗を振ってショートコースを10年間で100コース建設するという目標がほぼ達成できそうだというのがフランス。そのうちの一つである「GOLF UP」というショートコースを含む複合施設のCEOを務めるロバート・ルシール氏は言う。
「ショートコースの開発を妨げるのは、コースまでの距離、料金、一部のエリートしかやらないという意識です。今の生活にふさわしいのは、気軽に入会でき、ドライビングレンジは無料で、予約は要らず、特別なウェア、ギアも不要というゴルフ場。礼儀作法がわからなくてもやってみようという雰囲気のあるコースです」
そのため、GOLF UPでは欧州のショートコースとしては初めて、全面人工芝を採用したという。
「これにより運営費が安くなり、初心者でもプレーしやすくもなる。とてもエコ。プレーコンディションもいいですし、悪天候でも問題ありません」(ルシール)
人工芝で気軽にできる都市部のゴルフ。サッカーに対するフットサルのようなイメージだろうか。たしかに、これならメンテナンス費用もかからないし、初心者でもプレーしやすいかもしれない。
都市部のゴルフ場はヒートアイランド現象を抑制する
一方、都市部にゴルフ場があること自体に価値があるというのはミネソタ大学のブライアン・ホーガン教授。
「私が住むミネアポリスでは、緑地の10%がゴルフ場です。ゴルフ場は炭素の排出を抑制し、雨水を貯留し、ヒートアイランド現象を抑制します。ミネアポリスにある135のゴルフ場を住宅地に置き換えると、0.83度気温が上昇する計算となります。ゴルフをしない人にとっても、ゴルフ場は恩恵があるのです」(ホーガン教授)
また、通常の公園に比べても、ゴルフ場は蝶や鉢などの受粉を行う生き物が生息しやすいのだとか。だからこそ、都市計画を行うときにはゴルフ場の有効活用を考えるべきとホーガン教授は語る。
もちろん、これら海外の事例は日本と日本のゴルフ環境にそのまま当てはめて考えるのは難しい部分もある。しかし、事情が違えど「高い・遠い・時間がかかる」がゴルフの参入障壁であることに違いはない。
サクッと遊べるゴルフ場、それは天然芝の9ホールかもしれないし、人工芝の6ホール、あるいは4ホールかもしれない。それが実現したら多くの都市部のゴルファーにとって朗報となりそうだが、一方で多くの日本人ゴルファーは「クルマで行く、ハーフで食事休憩をとる18ホールのプレー」を好むというデータも存在する。
まずは、「ゴルフは18ホール!」そう決めつけるのをやめるところから、誰もが楽しく気楽に遊べるゴルフの未来が見えてくるのかもしれない。