浅地洋佑がアジアパシフィック ダイヤモンドカップでツアー参戦8年目にして初優勝を飾った。アジアの強豪がひしめくなか耐えて凌いで1打差を守り切った新チャンピオン。ジュニア時代から将来を嘱望された逸材が『母の日』に大輪の花を咲かせた。
「僕は父親の顔を知らない」と浅地はいう。
母・信子さんが女手ひとつで彼を育ててきた。6歳でクラブを握った息子の才能に気づいた母は息子が小4のときプロコーチ・内藤雄士が指導を行っていたハイランドセンターの近くにマンションを買い、息子が思う存分練習できる環境を整えた。
ジュニア時代からプロ入り数年まで浅地を指導してきた内藤は中学時代の弟子について「プロを超えている。(マスターズチャンピオンの)チャール・シュワーツェルと同じクラブさばきができている」と絶賛していた。
それは杉並高校の2年先輩・石川遼も同様であの天下のハニカミ王子が浅地の才能に一目を置いていた。
石川の活躍からして自分もプロになればすぐにでも勝てると当時の浅地は思っていたのだろう。18歳でプロ転向するとすぐにツアー出場権を掴み第一線に立つ夢を叶える。
しかしそこからが長かった。13年にシード落ちを喫するとシード当落線上の“オン・ザ・バブル”で彷徨うことに。低迷している間に同じ歳の川村昌弘や時松隆光らが次々と優勝を飾る。ジュニア時代先頭を走っていた自分がなぜ勝てない? 自暴自棄になりゴルフを辞めたいと思いつめた時期もあった。
だが昨年、二人三脚の母と息子の旅に智子さんという伴侶が加わったことで浅地の心に変化が表れる。久々にシード復活。
そして今回マンデー予選から出場権を得たダイヤモンドカップでは見ているのが辛くなるほど厳しい我慢比べのなか、終盤はほぼバンカーにつかまりながら寄せワンで凌ぎ、最終18番もゲスト解説の片山晋呉が「ここからは寄らない」と声を絞った奥のバンカーから2メートルに寄せ下りのパットを流し込み「やったー!」と生涯最高の雄叫びを上げた。
母の頬にも妻の頬にも歓喜の涙が伝う。もちろん本人も。『母の日』の勝利に信子さんは「最高。一生分のプレゼントをもらいました」と満面の笑みを浮かべた。
この優勝で全英オープンの出場権も獲得した。もやもやしていたものが一瞬でスパッと晴れ渡ったようだった。もちろんこの1勝で満足するわけにはいかない。母の献身に報いるには1勝では絶対に足りない。
「カッコよかった」と夫を見上げた智子さんのためにもこれからが浅地にとって本当の勝負だ。
撮影/大澤進二