欧州ツアー「ブリティッシュマスターズ」では、2015年から地元・イギリスのプレーヤーがホスト役を務め、コース選定から大会運営に携わるという。トミー・フリートウッドがホスト役を務めた今年の大会の模様を、海外ツアー取材歴20年のゴルフエディター・大泉英子が語る。

近頃PGAツアーではツアー初優勝の選手が続出しているが、ヨーロピアンツアーでもまた名も無き若手選手が初優勝を果たし、フレッシュな風を吹き込んでいる。

先週、マンチェスター郊外のヒルサイドGCで開催された「ブリティッシュマスターズ」では、スウェーデン人選手のマーカス・キノート(22歳)が最終ホールで約5メートルのクラッチパットを決め、1打差で初優勝。レース・トゥ・ドバイランキングでは18位まで浮上した。

彼の父はプロゴルファーで、妹のフリダは世界アマチュアゴルフランキングで6位の非常に才能溢れるアマチュアゴルファー。彼自身もジュニア時代からジュニアライダーカップやユース・オリンピックで優勝したことがあるが、イギリス人のシニアツアー選手であるバリー・レーンからいろいろとアドバイスを受けているそうだ。

画像: 今年の「ブリティッシュマスターズ」でホスト役を務めたトミー・フリートウッド(左)が、同大会を制したマーカス・キノート(右)を祝福(写真/Getty Images)

今年の「ブリティッシュマスターズ」でホスト役を務めたトミー・フリートウッド(左)が、同大会を制したマーカス・キノート(右)を祝福(写真/Getty Images)

さて、「ブリティッシュマスターズ」は1946年から「ダンロップマスターズ」として開催されてきた歴史のある大会だが、2015年からは非常にユニークな手法を取り入れることで大会を盛り上げることに成功している。  

ヨーロピアンツアーとスポンサーでイギリス人選手を一人、ホストに選び、コースを選定したり、大会を盛り上げるためにミーティングに参加したり、あるいは実際にスポンサーをもてなすなど、大会でプレーをしながらホスト役をもこなしてもらう、というものだ。

過去、イアン・ポールター、リー・ウエストウッド、ルーク・ドナルド、ジャスティン・ローズらがホストを務め、自分とゆかりの深いコースで大会が行われてきたが、今年はトミー・フリートウッドがホストに選ばれ、地元サウスポートのヒルサイドGCを開催地に選んだ。

彼は今やライダーカップやメジャーなど、世界の大舞台で最も活躍しているイギリス人選手で、17年にすぐ隣の「ロイヤルバークデール」で全英オープンが開催された時も地元のファンからの声援を一身に受けてプレーしていたが、ヒルサイドもまた、彼が幼少の頃からゴルフを学んできたホームコースのような場所である。

地元のスターがホストを務めるということで、マンチェスターやサウスポート、リバプールのゴルフファンたちが1週間で6万人以上集まり、ホストでありプレーヤーとして奮闘したフリートウッドに最終日の最終ホールでは惜しみない拍手と声援がかけられた。

「自分のゴルフはあまり良くなかったのは残念だが、初めて大会のホストを地元のサウスポートで勤めることができ、これ以上すばらしい経験はない。ヒルサイドGCは隠れた秘宝のようなコースで、あまり知られていないが、このような大会を行うには十分なコースだ。

僕はこの地でゴルフを学んできたが、ブリティッシュマスターズという試合は08年にまだ僕がアマチュアだった頃に初めてヨーロピアンツアーの試合に出場した思い出深い試合でもある。1打差で予選落ちをしたが、この試合にはたくさんの思い出と経験が詰まっている。そんな大会のホストを地元で務めることができ、本当に光栄だ。

普段の試合に比べると、ホストとしての仕事やミーティングもあり、どうしても十分な練習ができなかったし、試合に入る準備もいつもとは違っていたが、実際にこうしてホストを務めてみて、どういう感じなのかがわかったし、またこのような機会があれば是非やってみたい」

画像: 初めて大会のホストを務めたというトミー・フリートウッド。体調が万全でないなか、コース選定からファン対応、スポンサー対応など多彩な任務をこなした(写真は2019年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

初めて大会のホストを務めたというトミー・フリートウッド。体調が万全でないなか、コース選定からファン対応、スポンサー対応など多彩な任務をこなした(写真は2019年のWGCメキシコ選手権 撮影/姉崎正)

実は、フリートウッドはウィルスに感染し、体調は万全とは言い難い状態だった。その上ホストとしての務めも果たさなければならなかったため、実際は試合どころではなかったのかもしれない。上位で優勝争いをしていたもののあと一歩及ばず、地元優勝とはならなかった。

しかし、大会中はファンたちのサインや写真撮影に積極的に応じたほか、クラブハウス前に建てられていた自分の名前を冠した「トミー・フリートウッドパビリオン」(主催者たちをもてなす建物)に足を運んで、スポンサーたちへのおもてなしも行い、ラウンド後にはグリーンキーパーたちとともに目土を行うなど、自身のゴルフの調子だけでなく、トーナメント全体の成功をも考えなければいけないなど、気の抜けない状況だったようだ。

来年は再びリー・ウエストウッドがホストを務めることになっているが、このように人気プロをホストに据え、プロにトーナメント会場を選ばせて(通常は自分の地元のコースでやることが多いのだが)、ファンたちを集めて地域ぐるみで大会のバックアップをするというやり方は、地域活性化にも繋がるし、その地域のゴルフの発展にも大きな貢献をもたらす。

今回も地元のヒーローであるフリートウッドを見るために子供たちが多数会場に駆けつけ、声援を送る姿も多く見られた。きっと、この試合の観戦をきっかけにゴルフを始める子供もいるに違いない。このようなちょっとした「仕掛け」がゴルフ界の活性化にとって大きな活路を見出すきっかけにもなるのだ。

キース・ペリーCEO率いるヨーロピアンツアーは、このような取り組みだけでなく、「よりたくさんの人にゴルフを知ってほしいし、やってほしい」ということで、「障害者ゴルフのプログラム」について、ヨーロピアンツアーが取り組むことも発表した。そして、障害者ゴルフを過去30年に渡り支援してきたISPS(国際スポーツ振興協会)の半田晴久会長をオナラブルアンバサダーに据え、その功績を讃える表彰式が行われた。

「ゴルフは今まで、エクスクルーシブ(排他的)なスポーツとして見られることも多かったが、そうではなくインクルーシブ、つまりいかなる人でも楽しめるスポーツにしなければいけない。そういう意味では、Dr.ハンダは障害者や盲人ゴルファーを30年にも渡りサポートし、障害者であってもゴルフを楽しめる環境を作り、彼らのための大会も開催してきた。今後はヨーロピアンツアーでも彼と一緒に何か障害者ゴルファーを支援するような試合を一緒にやっていけたらと思う」

今後、世界のゴルフは、この「インクルーシブ」という言葉がキーワードとなって新たな形で発展していくことになりそうである。

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