ゴルフでスロープレーはもっとも避けるべきことのひとつだが、そこには「歩く速度」も関わってくる。当然、年齢に応じて異なるが、どれくらいが目安なのだろうか。ゴルフマナー研究家・鈴木康之の著書「脱俗のゴルフ」から“歩く”ことに関したエッセーを紹介。

せっせと歩ける、シニアの幸せ

友人の個展会場から仲間たちと連れ立って居酒屋へ向かう道で、そのうちの一人から袖口をつかまれ「ゆっくり歩いてよ」と注意されました。みんなとの間隔が空いた、同行者との歩調を考えなさい、とのお叱りでした。みんなも早くビールにありつきたいに違いないとペースメーカーを務めていたのに、それは悪うございました、脚力の個人差に気が回りませんでした。

私の父は海辺の村から山里の農学校まで毎日往復七里を、朝は始業に遅れないように、タベは狸が出てくる前に帰ろうと、せっせと歩いて育った人。私には父の脚力とせっせの気性が授かりました。

その父譲りの歩行能力が加齢とともに近頃落ちてきたのではないかと心配です。ドライバーの飛距離の衰えは当たり前と割りきり、ショートゲームで補えばマン振りの若い者にもそうそう巻き上げられはしまいとたかをくっていますが、足の衰えは油断がなりません。運動能力全体の衰えに直結するばかりか、スロープレーの最大の原因につながるからです。

画像: あなたの歩行速度はどのくらい?

あなたの歩行速度はどのくらい?

思い出したのは故・水谷準さんの歩行テストです。往年の探偵小説家と言うより読者諸氏には古典的名著ベン・ホーガン『モダン・ゴルフ』の訳者と紹介したほうが分かりがいいでしょうか。

水谷さんは二〇〇四年に逝かれましたが、お達者で九十七歳というご長命でした(三つ上の私の父も享年九十四歳)。八十二歳の時、小金井CC十番脇の道、四〇〇ヤードを歩いて計測しました。二八〇秒。その二十年前、ゴルフブームが起こると同時にコース内にスロープレーヤーによる渋滞が蔓延、その原因がそれまでのゴルファーに比べて新入りたちの歩行速度の遅さにありと判明、では自分はどうかと四谷の外濠で四〇〇ャードを歩いて計測したことがあり、日記に六十二歳で二二〇秒と記録されていたそうです。

八十二歳になって六〇秒遅れました。ということは六十代に比べてラウンドで十八分近く遅くなっているのかもという計算です。真面目なゴルファー水谷さんは、この遅れを歩行以外の動作や段取りで補おうとなさったに違いありません。

長躯だった水谷さんと違って短足の私はどうなのか、オーバー・セブンティになった直後、計ってみました。パソコンで家の近くの地図を検索、拡大して四〇〇ヤードつまり三六〇メートルの道を見つけ、秒針つきの時計を持って歩きました。往復のどちらも二三〇秒で、まあまあ水谷さん並みでした。

一般はどうなのか。老人クラブのリーダー (男子)を対象とした調査データがあります。六十代後半で二三〇秒、七十代前半二三三秒、七十代後半で二四二秒です。

一度ご自分の歩行速度を計ってみてはいかが。次打地点まで一気に四〇〇ヤードを歩くことはまずありませんから、二〇〇ヤードでいいでしょう。四〇〇ヤードのパー4ホール。ティの表示板から二〇〇のヤーデージ杭まででもいいでしょう。もっともこう言われて実際にやってみようと腰を上げるような真面目な人はそれだけで結構。たぶんせっせと歩くシニアに違いありません。その気が起こらない人が、要注意なのですが。

撮影/小林司

画像: 東大ゴルフ部式!統計で練習効率を上げる~井上透と幡野夏生のこれってどうしてる?#9~ youtu.be

東大ゴルフ部式!統計で練習効率を上げる~井上透と幡野夏生のこれってどうしてる?#9~

youtu.be

This article is a sponsored article by
''.