2009年に自律神経研究の権威である順天堂大学の小林弘之医師と出会い、2010年のキヤノンオープンで13年ぶりの優勝を遂げた“ヨコシン”こと横田真一。
研究を始めた直後の優勝がきっかけとなり、順天堂大学大学院で交感神経と副交感神経のバランスがゴルフのパフォーマンスに及ぼす影響について研究。修士課程までを修了している。
交感神経と副交感神経。それがゴルフにどう影響するのか。まずは基本的なことから教えてもらおう。
「交感神経とは闘争と逃走の神経。ライオンに襲われたとき、人間は防御反応として心臓に血液を流し込み抹消の血管が収縮します。顔面蒼白で頭は真っ白、これが交感神経が振り切った状態。アドレナリンは出るし呼吸も浅くなります。このように一度上がった交感神経はなかなか元に戻らない。一度緊張したら戻すのはなかなか難しいんです。対して、副交感神経優位なのはリラックスした状態。手足がポカポカして心拍が下がる。眠りにつきやすくなります」(横田)
今の日本には、ストレスフルな仕事や人間関係、不規則な生活などで交感神経が優位な人が多いと横田は言う。しかし、交感神経優位な状態でゴルフに臨むと、「5番ホールくらいで疲れて大叩きしてしまいます」(横田)のだとか。
たしかに、「今日はベストスコアを出すぞ!」と意気込んで臨んだゴルフでは大抵大叩きする気がする。ずっと緊張状態でいるのではなく、適度に副交感神経優位な状態も意識的に作る、要するに自律神経のバランスを取ることが大切なのだ。
ただ、そこまでは「それができたら苦労しないよ」という話。どうすれば自律神経をコントロールできるのか。
「石川遼が試合中、パターをぎゅーっと握っている映像をテレビで観ましたが、彼も緊張を抜く方法を知っているんだと思いました。緊張したときにはあえて思い切り力んだりする、つまり体を意図的に緊張させることでリラックスさせることができるんです」(横田)
面白い話がある。以前横田は、ジャンボこと尾崎将司が優勝争いの中で般若心経(はんにゃしんぎょう)を唱えてショットに臨むという雑誌の記事を読み、本人に「本当ですか?」と直接尋ねたことがあるという。
「本当だよ、俺は臆病な男だからな。必ず最後の行を唱えるんだ。ひと言でいうと何とかなるというような意味なんだがな。俺が唱えると必ず不動明王が出てきて怒られる、自分でやれと怒られるんだ」そうジャンボは答えたのだとか。
これにより過度の緊張を和らげ、自律神経のバランスが取れることを、ジャンボは無意識にわかってたのだろう。このように、一流選手は一つのテクニックとして交感神経を下げて副交感神経を上げる=自律神経のバランスをとる術を持っている。
もちろん、交感神経が下がり切って闘争本能がなくなったら本末転倒。大切なのはバランスだ。テレビ中継を観ていると、優勝争いまっただ中のプロにキャディが飲み物を差し出すシーンを見かけるが、あれも同様。水分補給ということもあるが、自律神経を整えるテクニックとしてやっているのだと横田は分析する。
「水を飲む、ため息、息を吐く、立ち止まる、ハードルを下げる、自分を俯瞰する、神にゆだねる、朝から早い動きの練習をしない、子供の顔の写真を見る。これらをすることで、副交感神経を活発にする効果があります」と横田。また、日常生活の中から意識しておくべきポイントも教えてくれた。
「早寝早起きをすること。夜は部屋を暗めにし、スマホより読書。運動でセロトニン(幸せホルモン)を出し良質な睡眠をとること。消化の悪いものなどは避け、消化器系に負担をかけないこと。身の回りの整理整頓をし、シンプルに生活すること。何もしない日を作ること。腸内環境を整えること、眠い時は昼寝をすることなどですね。このように自律神経を整えておくと、ゴルフだけでなく、仕事や日常にも役立つと思います」(横田)
横田の考えを参考に、朝から入れ込まず、交感神経と副交感神経のバランスをとれば……気がついたらベストスコアが出てしまっているかも?