女子ツアーの選手たちが使用するアイアンは、多くの場合セミキャビティ、あるいはポケットキャビティと呼ばれる、バックフェースをくり抜いて重量を周辺に配分し、そのことでミスヒットへの強さやボールの上がりやすさなどを高めたモデル。
なのだが、サントリーレディス以降の比嘉真美子は、どうやら極めて稀有な例外のようだ。比嘉のバッグには、契約先のピンの最新モデルである鍛造マッスルバックアイアン「ブループリント」が、入れられている。
ロフトは寝ており、ヘッドは極めてコンパクト。トウヒールに重量を配分し、左右の慣性モーメントを高めてあるとはいえ、たとえばバッバ・ワトソンが使用するようなクラブ。決して“やさしいクラブ”とは言い切れない。
比嘉は、そのブループリントを7番からピッチングまで4本入れ、その上の5番、6番は同じくピンのi500で揃えている。i500は見た目はマッスルバック的だが実は中は中空構造で、飛んでやさしいというモデルだ。
なぜマッスルバックを選んだのか、比嘉に聞くと「好きなんですよね。顔つき、打感……コントロールしやすいところ」とコメント。当たり前だが無理して使ってる感はない。サントリーレディスで比嘉のバッグを担いだ河戸映キャディは言う。
「(マッスルに変えて)球が強くなりましたね。強くなったと言っても、グリーンで止まらないわけではなく、しっかりと止まります。風に強くなり、それで止まるのでいいと思います」
マッスルバックはボールをコントロールしやすいため、タフなセッティングで1ヤードのコントロールにしのぎを削るPGAツアーの選手に愛用者が多いアイアン。だが、タイガー・ウッズが使用したのと同じ形状のテーラーメイド「P・7TW」アイアンが発売と同時に完売するなど、最近静かなブームの兆しも見えている。
ツアープロコーチの森守洋は、マッスルバックの良さをこう解説する。
「実は、私自身タイガーのアイアン(P・7TW)が現在のエースアイアンなんです。マッスルバックのアイアンも昔に比べると進化していて、現代のスピンの少ないボールでもしっかり高さが出るようになっています。それに、低重心のキャビティアイアンと比べると、ラフでボールが浮いている状況でも縦のスイートエリアが広いので、スコアラインの下から3本目や4本目で打ってもボールを浮かせられるメリットがあります。スウィング的には、ある程度ダウンブローでフェースをターンさせる打ち方のほうがマッチしますね」(森)
比嘉は女子プロに多いアイアンでも払い打つタイプではなく、まるで男子プロのようにダウンブローにボールをとらえるタイプ。ただでさえショット力に定評のある比嘉がコントロール性に優れたマッスルバックアイアンを手にすることで“鬼に金棒”状態となるか。
今週末、比嘉がショートアイアンを手にしたら、要注目だ。