7月18日に開幕する今季最後のメジャー・全英オープン。全英といえば、毎年トッププレーヤーが対策としてロングアイアンやアイアン型ユーティリティをキャディバックに入れるのが風物詩。ギアライター・高梨祥明が、トッププロの「全英対策クラブ」を考えた。

ニュードライビングアイアンが注目される全英オープン

今年の全英オープンはいつにも増して楽しみである。それはロイヤル・ポートラッシュGCのダンルースがその舞台だからである。アイルランドの中心、ベルファストから100kmも北にある海沿いのリンクスだ。細かい襞(ヒダ)のようにうねるフェアウェイ。長いラフ。そして巧みに配された深いバンカー群が落とし所をさらに限定する。

当然、いかにフェアウェイにティショットを運ぶかがマネージメントの第一歩となる最難関だ。もちろん、気まぐれに吹き付ける冷たい海風、変わりやすい天候がさらに難易度を高める。選手たちにとっても、いつものように400ヤード級のドライバーショットをバーン!と打てばよいコースではないのだ。

画像: 68年ぶりに全英オープンが開催されるロイヤル・ポートラッシュGC(※写真は2013に撮影したもの)

68年ぶりに全英オープンが開催されるロイヤル・ポートラッシュGC(※写真は2013に撮影したもの)

全英オープン、とくにスコットランドやアイルランドのリンクスコースで行われる際に注目されるのが、トッププレーヤーが“全英用”にキャディバッグに仕込むロングアイアン、あるいはドライビングアイアンの存在だ。ゴルフメーカー各社も、ここに合わせて新しいユーティリティ・アイアンをツアー投入することも多い。

先にも書いた通り、フェアウェイが狭く、ラフやポットバンカーに入れば確実に1打以上のペナルティとなるコースでは、何よりも安全な場所にボールを運ぶことが優先される。そのような状況を想定し選手が特別に選びバックに忍ばせるのが、ロングアイアンやアイアン型ユーティリティなのだ。

フェアウェイから果敢に攻めるセカンドショット・ギアというより、確実にフェアウェイに運ぶティショットギアという側面がより強いだろう。

全英用UTのやさしさは“上がりやすさ”にあらず!?

最も多いパターンが、普段5Wを入れている選手が全英だけは2番アイアンに入れ替えてくることである。弾道の高さを抑え、風の影響を受けにくくするためだ。ウッド形状よりもアイアン形状の方が打ち出しが低く、かつバックスピンも少なめになるからである。

一般的に“ユーティリティ・アイアン”という言葉からイメージされるのは、ボールの上がりやすさ、そしてミスに対する寛容性だと思うが、強風のリンクスを攻略する上で、ボールの上がりやすさは無用の長物。上がりやすくて、ミスに寛容ならば、普段の5Wのままで十分なのである。全英で重宝される“ユーティリティ・アイアン”の性能は、高さを抑えやすく、ミスヒットに対する寛容性が高いことなのだ。

画像: 2018年の全英オープンでユーティリティ型2番アイアン「GAPR(ギャッパー)」を使用していたタイガー(撮影/姉崎正)

2018年の全英オープンでユーティリティ型2番アイアン「GAPR(ギャッパー)」を使用していたタイガー(撮影/姉崎正)

全英オープンがくると、新しいアイアン型ユーティリティに注目が集まるが、踏まえておきたいのは、それらが決して“上がりやすさ”を目指して開発されているわけではないことである。はっきり言ってしまえば、「普通のロングアイアンではボールが上げられないから」という理由で選ぶクラブではないのである。

画像: ロフト16度、18度のユーティリティ・アイアンが“全英用”セットの主役。もちろん、通常アイアンの2番アイアンを入れる選手も多い

ロフト16度、18度のユーティリティ・アイアンが“全英用”セットの主役。もちろん、通常アイアンの2番アイアンを入れる選手も多い

ユーティリティと名がつくと、いかにも誰でも打てるやさしさが備わっているような気がしてしまうが、全英オープンで活躍するアイアン型ユーティリティはその限りではない。普通のロングアイアンでも十分にボールを上げられる選手たちが、ミスに対する寛容性と狙った幅の中での飛距離(ボールスピード)を求めてチョイスする、あくまでもロングアイアンなのだ。

高弾道のビッグキャリーで攻める空中戦が見応えの一つになっている現在のプロツアーだが、今年の全英オープンはそれだけでは攻めきれないはずである。弾道の高低を打ち分け、ランで距離を稼ぎ、風にぶつけ、風に任せる。そんなゴルフらしいゴルフを久しぶりに観たい気がする。そういう意味では、絶景のアントリム海岸に選手にとっては厳しめの風が吹くことを期待してしまう。

This article is a sponsored article by
''.