ウェッジは多様化の時代へ
キャビティバックとは、バックフェース中央の重量をえぐり取り、外周部に配分させた形状のこと。周辺に重量を配分することで慣性モーメントを高め、ミスヒットに強くしたり、ヘッドの挙動を安定させる効果があるのだが、今日発表されたグライド3.0ウェッジは、このキャビティバック構造になっているのが最大の特徴だ。
慣性モーメントを高くする。最近だとドライバーではこれがプロ用アマ用問わずに必須の性能となりつつあり、アイアンでも慣性モーメントを高くし、直進安定性の高さをウリにしたモデルが増加傾向にある。では、ウェッジの高慣性モーメント化は、どんなメリットがあるのだろうか。鹿又は言う。
「ウェッジはラフ、ベアグラウンド(裸地)、フェアウェイ、バンカーと様々なライから打つクラブ。しかも、グリーン周りの起伏の激しいところで使用するわけですから、当然一定の打点で打つクラブではありません。そのため、慣性モーメントが大きく、フェースの向きが安定しやすく、ミスヒットの際の方向性もいいことは、プロ・アマ問わずにメリットになると思います」
ただ、それによってヘッドを思い通りに操るコントロール性は犠牲になる。スポーツカーを運転するようにフェースを自在にコントロールしたいゴルファーにとっては、高慣性モーメント化はデメリットになる可能性もあるが、鹿又によればプロも含めた「8割以上のゴルファーは恩恵を受けられるはず」だという。
鹿又は、ピンに限らず、このような高慣性モーメントウェッジの必要性は今後さらに高まると予想する。その背景にあるのがアイアンのストロングロフト化だ。ピッチングウェッジのロフトが43度前後というモデルが増えている昨今、その下の番手が52度の単品ウェッジではロフトピッチが空きすぎることから、45〜48度あたりのレンジのウェッジの必要性が高まっている。そして、そのようなウェッジには、よりアイアン的機能が求められる可能性がある。
7番アイアンのロフトが35度のマッスルバックから26度の飛び系アイアンまで極めて幅が広くなり、全体的にストロング化が進む昨今、ウェッジにも従来とは違う形状、機能が求められるようになっている。鹿又は、慣性モーメントだけでなく、ヘッドサイズ、ロフトやソール形状などのバリエーションも増える可能性があるという。
「今回のグライド3.0はソールとロフトのバリエーションが過去モデルよりも増えていますが、ウェッジの代名詞ともいえるタイトリストのボーケイウェッジを筆頭に、キャロウェイ、フォーティーンなどのウェッジもロフトとソールのバリエーションが増えています。大きさもバリエーションがあっていいし、60度のウェッジと45度のウェッジが同じ長さである必要はないので、長さのバリエーションもあっていいですよね」(鹿又)
ロフト、ソール形状、ネックの形状、さらには大きいか小さいか、高慣性モーメントかそうでないか、長いか短いか……アイアンに合わせて、ウェッジも多様化していく。5億5千万年前、生物種が爆発的に増えた「カンブリア爆発」ではないが、ウェッジのバリエーションが一気に増える時代は、もうすぐそこまできているのかも。