「まさか自分がメジャーチャンピオンになるとは……」
ローリーはローリーでも勝ったのは髭をたくわえた32歳のシェーン・ローリー。現役時代から全英オープンは何度も経験しているラウンド解説の丸山茂樹が「これまで聞いたことがない歓声。ちょっと異常な騒ぎですね」というほどロイヤルポートラッシュはアイルランド勢の勝利に湧きかえった。
思えば1年前、カーヌスティで行われた全英オープンで3年連続予選落ちを喫したとき、駐車場に停めた車のなかでローリーは号泣していた。
「ゴルフなんて友達じゃない!」
22歳のアマチュア時代、アイリッシュオープンを制したゴルフエリート。だが16年の全米オープンで3日目を終えながら最終日に4打のリードを守りきれず逆転されるなど、これまでメジャーとは無縁だった。しかも昨年は不調に喘ぎ米男子ツアーのシード権すら失った。
「(駐車場での号泣から)たった12カ月後にクラレットジャグ(トロフィー)と並んで会見するなんて…信じられない。現実にこんなことが起きるんだね。まだ実感が湧かない」とローリー。
柄に似合わず緊張するタイプで以前最終日に逆転される悪夢を経験したこともあり、いくらリードがあっても安心はできなかった。ようやくほおを緩めたのは最終18番のグリーンの向こうに家族やパドレイグ・ハリントン、グレアム・マクドウェルらツアー仲間の顔があるのを確認してから。
だが「まだ試合は終わっていない。さっさと仕事を片付けよう」というキャディの声にはたと我に返ったローリーは大会前コーチにいわれた言葉を思い出した。
「メジャーだから、アイルランド開催の大会だから、と意識しすぎないことが大事。普通に目の前の1打をこなすんだ」
アドバイスを胸にタップインパーに収め6打差の勝利をもぎ取った。
「まさか自分がメジャーチャンピオンになるとはねぇ。昔ハリントン(全英2勝)のうちに遊びに行ったときコーヒーテーブルの上にさりげなくクラレットジャグが置いてあって羨ましかった。これでうちのコーヒーテーブルにも飾れるね!」
勝者は愛おしそうにレジェンドたちの名が刻まれたトロフィーを眺め白い歯を見せた。
撮影/姉崎正