渋野日向子が今季海外メジャー最終戦AIG全英女子オープンに初出場初優勝。樋口久子が77年に全米女子プロゴルフ選手権に優勝して以来、誰も達成できなかったメジャー獲りの壁を20歳の黄金世代がいともたやすく乗り越えた。

ファンにもメディアにも壁を作らずに、あっけらかんと歴史的快挙達成

決して“いともたやすく”勝ったわけではないだろう。しかしプレッシャーがかかる優勝争いのサンデーバック9でカメラに目を向けながら笑顔で駄菓子を齧ったり、インターバルでファンたちとタッチを交わす渋野に張り詰めた緊張感や悲壮感は皆無だった。

海外メディアでも大きく報じられた“スマイリングシンデレラ”はウィニングパットを沈める瞬間まで笑顔を絶やさず、イギリスの目の肥えたギャラリーをも魅了した。

なんの期待もなかった分、気楽だった。「予選を通ればよいと思っていた」から初日からの上位争いは「期待を遥かに超えていた」と笑い、コースを見てはじめて「全英だからリンクスかと思ったらそうじゃなかったんだ」と気づくなど気負いはまったくなかった。

画像: AIG全英女子オープンを制した渋野日向子(写真は2019年のアース・モンダミンカップ 撮影/大澤進二)

AIG全英女子オープンを制した渋野日向子(写真は2019年のアース・モンダミンカップ 撮影/大澤進二)

メジャー獲りは日本勢にとって悲願。樋口のメジャー勝利から10年後の87年に米女子ツアーで賞金女王に輝いた岡本綾子や、世界ランク1位に立ったこともある宮里藍でさえ成し遂げられなかった偉業を渋野が初挑戦でものにしたのはなぜなのか?

岡本や宮里と渋野の大きな違いは性格。目立つことを好まずマスコミにも“クローズ”な姿勢が目立った先輩に対し渋野は“オープン”。あっけらかんと自分をさらけ出す。

「食べたものが出そう」といって笑わせたり「(賞金で)一生分の(好きな)お菓子を買いたい」
と意表をついた答えを口にしたり、渋野はとにかく自然体だ。

かつてゲーリー・プレーヤーが「クローズになればなるほど自分が苦しくなる。バリアを作らないことで楽になる」といったことがあるが、渋野はマスコミにもファンにもバリアを張らないことでストレスを上手に回避しているように見える。

もう1つが期待値。岡本や宮里は日本ですでに実績があり周囲の期待値が高かった。だが渋野は初優勝が国内メジャーのワールドレディスサロンパスカップで注目されたものの、黄金世代と呼ばれる同世代が活躍しているため彼女だけに話題が集中したわけではない。

期待値が低かった分本人も伸び伸びとプレーできたのだろう。最終日の3番で4パットのダブルボギーを叩いたとき「悔しいを通り越してわらけて(笑えて)きた」と落ち込みを笑いに変え後半の巻き返しに繋げた。4パットすれば普通は「今日は自分の日じゃない」と諦めるところだがそうではないのが彼女の強み。

宮里がある試合で4パットをしたとき「この世から消えてなくなりたいと思った」と涙を浮かべたのとは対照的だ。

ゴルフは決して右肩上がりだけのスポーツではない。誰にでも浮き沈みがあるし、今後は人々の見方も変わってくる。勝って当たり前と思われるようになる。そうなったときいかに自然体でいられるか。渋野の真価が問われるのはこれからだ。

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