全英女子オープンで渋野日向子が優勝。PGAツアーでもデビュー後すぐに優勝したコリン・モリカワとマシュー・ウルフを筆頭に、同世代のビクトル・ホブランなど新しいスターが目白押し。これらの新人に共通する動き「バウドリスト」について、統計学的データ分析の専門家、ゴウ・タナカが分析した。

バウドリスト(Bowed Wrist=曲がった手首)とは、ダスティン・ジョンソン(DJ)、ブルックス・ケプカ、ジョン・ラームらが代表例で、トップポジションで左手首を地面方向(手のひら側)に折るスタイルのことを言う。渋野日向子選手、モリカワ、ウルフ、ホブランもこの癖を持っているのだ。渋野選手はトップではストレート、ウルフはむしろ逆に折る“カップドリスト(Cupped Wrist)”スタイルだが、切り返しでバウドリストさせていく。

画像: ケプカ、DJはトップでバウドリスト(掌屈)の動きが見られる。ホブランやモリカワも同じタイプだ(撮影/姉崎正)

ケプカ、DJはトップでバウドリスト(掌屈)の動きが見られる。ホブランやモリカワも同じタイプだ(撮影/姉崎正)

DJ、ケプカ、ラーム、モリカワ、そしてホブランはトップポジションですでにバウドしているのだが、渋野選手、ウルフは切り返しからバウドさせていく。ではトップからバウドさせている場合と切り返しからやるのでは何か違いがあるのだろうか?

画像: 渋野や、ウルフは切り返しで手首が手のひら側に折れる(撮影/大澤進二)

渋野や、ウルフは切り返しで手首が手のひら側に折れる(撮影/大澤進二)

後者は手首を折ることを切り返しの予備動作、きっかけにしているというぐらいで、結果インパクトでの形にどちらのスタイルも変化はないと理論上言える。

そしてほとんどのこのバウドリストを使う選手はヘッドスピードが速くそもそもの身体能力が高い選手が多いというのが特徴だが、今回渋野選手のこの動きを見て私は正直驚いた。女子でこのバウドリストを使う選手は男子に比べ極端に少ないからだ。

その理由は早い段階でフェースをシャットにし、フェースローテーションを抑えるため、球筋が安定する代わりにハンドファーストのインパクトがマストとなり、パワーがない限り球が上がりにくいからである。

さらにフェースローテーションを抑えるのでヘッドスピードも落ちる傾向にある。この条件の中、女性である渋野選手がバウドリストを使っているというのはやはりデータを取り続けてきた私には驚きだった。全英女子最終日の12番ホールで250ヤードほどキャリーさせ、パー4でのワンオンを可能にしたパワーを持つ渋野選手だからできるこのリストの使い方なのだと言える。

最近多く見られ、トレンドのように感じるが、このバウドリストは良い動きなのだろうか? メリット、デメリットを下記にまとめた。

〇メリット
・球筋が安定しやすい
・ダウンスウィングでクラブの入射角がシャローになりやすい

〇デメリット
・球が上がりにくい
・ハンドファーストでインパクトできないと左にミスしやすい
・距離が落ちる
・よほどのパワーがないとフェードかひっかけにしかならない

最近注目を浴びている、ジョージ・ガンカスが提唱する「GGスウィング」ではバウドリストについては触れられてないが、シャローイング(切り返し以降クラブを寝かせる動き)を強く推奨しており、このバウドリストはシャローなダウンスウィングを誘発しやすい点においては良いと言えるだろう。

画像: 渋野のダウンスウィングを見るとシャローにクラブが下りてきて、ハンドファーストでインパクトできている

渋野のダウンスウィングを見るとシャローにクラブが下りてきて、ハンドファーストでインパクトできている

スウィングデータ分析の結果でもシャローなダウンスウィングにはかなりの優位性がみられるため、そういった意味では大いなメリットと言える。

ただ大きな問題がある。やはり、圧倒的なパワーがないといけない点だ。相当なヘッドスピードがない限りこのバウドリストを使うとデメリットが上回ってしまい、普通のアマチュアには推奨はできない。渋野選手のようにキャリーで250ヤード飛ばせるようなベースが最低限必要だろう。

ただ、どうしても試してみたい方がいるなら1つのポイントを変えればバウドリストが使える可能性を上げられる。それは女子では極めて珍しいこのバウドリストを渋野選手が使いこなしているための重要なポイントでもある。左のグリップの握り方だ。

DJも同じように握っているのだが、かなりロングサム(左親指を伸ばす)でグリップするということだ。ロングサムで左手をグリップしたらショートサムでグリップするよりもバウドリストの影響がクラブに出づらくなりシャットフェースの度合いが減り、球も上がりやすくなるのだ。こうすれば、多少ヘッドスピードが足りなくても使いこなせる可能性は上げることができる。

画像: 左親指を伸ばしてロングサムに握るとシャットフェースの度合いが減り、ヘッドスピードが足りなくても「バウドリスト」を使いこなせるとタナカ

左親指を伸ばしてロングサムに握るとシャットフェースの度合いが減り、ヘッドスピードが足りなくても「バウドリスト」を使いこなせるとタナカ

ロングサムができない人はウルフのようにウィークグリップにしてやれば良いだろう。ただ、この方法はかなりの違和感を覚えること間違いなしである。

ほとんどの女子プロがストレートか、バウドの逆に折るカップドリストを使っていることから分かるように、力のないアマチュアにはやはりストレート、もしくはカップドリストが良いということがデータ科学的には結論づけられる。

最後に、渋野選手42年ぶりの快挙おめでとうございます。今後も本当に楽しみです。

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