「今のところ、その雰囲気は感じない」
松山英樹が主戦場を米国に移した2014年から早5年。国内男子ツアーからは、小平智がPGAツアーで日本人5人目となる勝利を挙げてはいるものの、昨年の賞金王・今平周吾が海外では苦戦が続くなど、「世界で戦う」ということの大変さを感じさせられる。
男子ツアーから、次の松山英樹、そして男子版・渋野日向子は現れないのだろうか。まずは、ツアーのご意見番・谷口徹に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「今は(海外に)出ないと通用しない。PGAツアーはレベルも当然高いし、小平くんが出ていっても、あまりうまくいっていない。英樹とかは凄いと思いますよ。そんなに調子が良くないと言いながら、あそこまでできるのはすごいし、底力を感じる。でもやっぱり、次(の松山)が出る可能性、雰囲気は今は感じないですね」(谷口)
ただ、以前よりも選手の体が大きくなり、飛距離も伸びている。谷口は、そういった選手が複数人集まり、国内で高いレベルで賞金王争いをすることでレベルアップしてもらいたいという。
「星野(陸也)くんとかね、そういう(スケールの大きい)選手はいるけど、外に行くってなるとまた違ってくる。ポテンシャルがある選手は結構いるから、やっぱり賞金王争いとかに4人5人と(そういう選手が)出たらいいなと思いますね」(谷口)
海外志向の強い女子ツアーの黄金世代
女子ツアーの場合、黄金世代の台頭もあってツアーのレベルが急激に上昇。その中で切磋琢磨することで、気がつけば世界で戦えるだけの実力を磨ける。女子ツアーでは松田鈴英、男子ツアーでは梅山知宏らを指導するプロコーチの黒宮幹仁は言う。
「男子では、石川遼、松山英樹の世代が国内で一気にレベルを上げて賞金王となり、海外へと出て行きましたが、自分と同世代(黒宮は91年生まれ)のプロと話をしても『日本ツアーで戦えればいいや』という意識を感じます。それに対して、女子は黄金世代の子なんかでも、アメリカで戦いたいって選手が多いですね」(黒宮)
もし仮にPGAツアーが通年日本で開催されたら日本人選手もそれなり以上の活躍を見せるはず。ただ、谷口が指摘するように、現実としては自分から海外に打って出なければそこで活躍するのは難しい。だからこそ、男子選手にハングリー精神を求めるのは今平周吾のバッグを担ぐベテランの柏木一了プロキャディだ。
「先日、(今平と出場した)WGCのあと、PGAの下部ツアーであるコーンフェリーツアーで(日本ツアーでも活躍した)ドンファンのキャディをした際、試合中に濃霧で4時間半の中断がありました。そのとき、4時間半球を打ち続ける選手が何人もいたんです。自分でクルマを運転し、車中泊しながら戦う彼らを見て、ハングリー精神が違うと感じました。(それと比べれば)日本ツアーはぬるま湯です」
前出の黒宮は、韓国人選手から聞いた話として、韓国のプロは成績が悪ければすぐにスポンサーから契約を打ち切られるというプレッシャーの中、戦っていると教えてくれた。日本のスポンンサーは総じて長い目で選手を見てくれる傾向があり、多少成績が悪くても即契約打ち切りとはならないケースが多いという。温かいスポンサーシップは素晴らしいことだが、それも時として“ぬるま湯”につながってしまうのかもしれない。
“チーム制”が世界に挑む近道になる!?
では、そんな恵まれた環境を飛び出して世界で戦うためには何が必要か。前出の黒宮は、海外選手が当然のようにやっていることを日本人もやるべきだという。
「海外ではチームを組んで選手をサポートするのが一般的。日本の、とくに男子プロには『自分より上手くない人に教わりたくない』という感覚があるんですが、もっとトレーナーだったり、コーチだったりを税金対策だと思って付けてもらいたいですね」(黒宮)
女子ツアーには一見してわかるほどコーチの数が多い。選手はプレーに集中し、スウィング面はコーチが管理。体の面はトレーナーが担当という分業制だ。
海外ツアーでは、さらにコーチがスウィングとショートゲームで分かれていたり、メンタルコーチ、マネジメントコーチを付けているということもある。世界のトレンドである分業制を取り入れるべきという意見は一理がありそうだ。
ポチッと押せばメジャー王者が出てくるボタンはこの世に存在しない。ただ、ツアーも、選手たちも、渋野日向子の勝利にはきっと大きな刺激を受け、それぞれなにかアクションを起こすに違いない。そうして生まれた小さな変化が集まった先に、松山、小平に続いてPGAツアーで勝利を挙げ、渋野のようにメジャーにまで手が届く選手が生まれる可能性を信じて、その日を待ちたい。